「銀河鉄道の父」 著 門井慶喜

「銀河鉄道の父」

著 門井慶喜

「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」「注文の多い料理店」など日本の童話史に欠かせない存在である宮沢賢治の父、政次郎を主人公にした物語です。

小説はある意味で、その切り口が勝負ともいえますが、政次郎を主人公にして、さらにタイトルを「銀河鉄道の父」とつけた時点で勝負ありですね。

名作にならないわけがありません。

実際、宮沢賢治の個人史は伝記などでそれなりに有名ですが、政次郎の視点で描かれることで全然違った印象になりますからね。

確かに、父親から見て見れば、賢治は超厄介な子どもであり、しかもそれを明治の家父長制ゴリゴリの価値観の中で子育てをしなくちゃならないのだから無茶苦茶大変です。

ただその大変さを賢治だけに負わせるのではなく、賢治と向き合うことで、政次郎自身が自分と向き合う話になっているのだから、感情移入できないわけがないです。

どうしても明治の男の人を主人公として描こうとすると、男尊女卑のマッチョな人物像になりやすいのですが、この政次郎という父親は、そうした価値観の中で育まれながらも、賢治を育て射ることで自分自身の弱さを認めて行きます。

その弱さを認めるというのがこの物語の肝であり、そして父親になっていくという話なんですよね。

門井さんはこの物語をご自身の子育て中に書いたそうですが、その十年前にも十年後にも、この作品を書くことは出来なかったと仰っていますが、それは納得できますね。

作者自身の父親になるという想いが大きく作品に影響を与えているのがよくわかり、それがこの作品の当事者性を際立たせて、特異なものにさせています。

わたしも現在小学生の子どもが二人いるので、父親になるということを深く考えさせられながら興味深く読むことが出来ました。

直木賞を獲るべくして獲った作品だと思います。

宮沢賢治ファンの人だけでなく、多くの父親に読んでもらいたい本です。