「三体X 観想之宙」 著 宝樹

「三体X 観想之宙」 著 宝樹

世界的に大ヒットした「三体」シリーズの公式スピンオフ作品です。
「三体」シリーズの劉慈欣さんが書いたものではなく、そもそもはただの一ファンであった宝樹さんが「三体」が好きすぎてシリーズで語られなかった部分を自らの想像力によって補完した同人誌なんですよね。

ただこのわずか一月ばかりで個人が勝手に書かれたというスピンオフ作品のレベルがすこぶる高い。
瞬く間に注目を浴びた本作はついには、本家本元の劉慈欣さんの目にも止まることとなり、晴れて劉慈欣さんからのお墨付きをもらったという、なんともはやその出自そのものが伝説的な話です。

一応公式スピンオフ作品ということになってはいるものの、本作の見解はイコール劉慈欣さんの見解というわけではなく、あくまであったかもしれない一つのオチとして捉えてほしいということなんですが、ただあまりにその完成度が高いので、これを読んでしまうと、なるほど確かに「三体」で残された謎の答えはその通りかもね、と唸ってしまいます。

とにかく「三体」の中で解き明かされたなかったことに対し、しっかりと説明をつけていくんですよね。
個人的には、なぜ雲天明と艾AAの二人が閉じ込められたプラネットブルーにおいて小宇宙を使わなかったかという疑問に対する、動機についてはやや弱い気がしましたが、それ以外は読んでいて納得がいったというか、まるで劉慈欣さんその人が書いたものを読んでいるような錯覚すら覚えてしまってのめり込んでしまいました。

特にわたしがなるほど、これはいい答えだ!と唸ったのは、三体人の姿の描写。
劉慈欣さんは、読者のイメージを膨らませたいがために、わざと三体人の姿については最後までふれなかったのかと思われますが、ここについても果敢にチャレンジしているんですよね。
そして、その答えが思いつきもしない話で、面白かったです。

そのほかにも疑問に思っていたことについてこれでもかというほどうまく答えを出していたので、これほど優れたスピンオフ作品はなかなかないのではないでしょうか。
確かに、最初の雲天明と艾AAの対話だけならいざ知らず、話がその後想像もつかないようなぶっ飛んだ方向に行ってしまい、人によっては受け入れられない人もいるかもしれませんが、個人的にはこれぞSFといった感じで展開していくので満足しました。

ていうか、この手の壮大な話って、壮大過ぎて結局雲をつかむような何だかよくわからない話になりがちなんですが、壮大に話が広がりながらもしっかりと話をまとめていく点にこの作者の力量を感じますね。
確かにこの作品は「三体」シリーズありきの作品なんで、「三体」シリーズを読まなければさっぱり分からない話ではあるんですが、「三体」シリーズを知っていれば、単体でも充分に読ませる作品なんですよね。

まあ、優れた作品は、こうした優れたスピンオフを生むということの典型的な例ですね。
一人の天才の想像力が、別の天才の想像力を刺激して、話をもっと面白くしていく。
こんなに素晴らしい話はないです。

「三体」シリーズを楽しんだ人には、アンコールみたいなものなので、ぜひもう一度この作品を読んで楽しんでほしいですね。