「地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』 著 岸正彦、打越正行、上原健太郎、上間陽子

「地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』 
著 岸正彦、打越正行、上原健太郎、上間陽子

沖縄の地元の共同体を社会学的に研究したものをまとめた本なんですが、色々と考えさせられる本でした。
ある意味で、この本を一冊読めば、世界が支配的な関係で成り立っているということがよくわかる本です。
近年、日本本土に住む日本人にとっては、沖縄といえば日本有数の観光地であり、明るいイメージばかりの印象があります。
二十年ほど前のNHK朝の連続ドラマ小説「ちゅらさん」が放映された頃からはその傾向に拍車がかかり、沖縄の町とか村といえばどこものどかで陽気に踊っているという先入観ばかりが本土の日本人には根付いてしまっています。
確かにそうした陽気さや共同体の持つ暖かさは沖縄らしさを表す一つの側面でありますが、ただそれはその良さだけが強調されている面もあり、当然のところながら悪い面や問題点があることも事実なんですよね。

この本では、エリート層、中間層、社会的に排除されている下層の三つの視点から、沖縄の共同体とは本当はどんなものなのか、そしていかに沖縄が各層ごとに経済的にも心因的にも分断されているのかを見事に描いています。
地元の共同体から距離を取り、大企業や公務員、教師などになって安定した身分を手に入れつつも、沖縄らしさを失っていくエリート層、共同体に縛られながらも、共同体にいるからこそのメリットを生かして生活を営む中間層、そして共同体からも排除され、排除されたもの同士が抜け出せない過酷な上下関係を築くことによってどうにか生き延びている下層。
そこでは、それぞれの層があまり絡み合うことはなく、それぞれの世界の中で、それぞれの認識のもとに生きているんですよね。
特に十年にも渡り、元暴走族のパシリとなって、彼らと生活をともにすることによって彼らの実態を垣間見ようとしている打越氏の研究スタイルには度肝を抜かれましたよ。

しかも、この本のすごいところは、読んでいるうちに、こうした分断は、それが顕著である沖縄だけじゃなく、日本全国、もっといえば世界中が抱えている問題であることがわかってくる点です。
日本では、ここ数年一億総中流の幻想が崩れ、格差社会が大きく叫ばれるようになっていますが、そもそも都市化と資本主義が進むと同時に規模の差はあっても、こうした身分差はどうしても出てきてしまうもので、身分差そのものは見えてこなかっただけで昔からあったんですよね。
でも、情報を発信するのは、常にエリートばかりだったから、下層の声が届いてこなかった。
ネットが普及し、ようやく下層の声があること自体が認識されても、だからといってそれは自己責任として切り捨てられ、同じ社会の話だと認められてこなかったんですよね。
そりゃ、そうですよね、エリート層からしたら搾取が明るみに出て、後ろめたさを感じるだけの話ですからね。
そうした中で、こうした各層を体系的に捉え、その実態を探っていく研究はとても意義のあることだと思います。
特にこれまで拾われることのなかった下層の実態を明らかにしていくことは今後社会をどのようにデザインしていくのか、富の分配をどうすればいいのかを考えるにあたり、克服するべき社会課題であるので重要です。
ぜひとも今後も継続していってほしい研究だと思いました。