「成瀬は天下を取りにいく」 著 宮島未奈

「成瀬は天下を取りにいく」 著 宮島未奈

「面白い」の一言で表現出来る作品ですね。

普段読書をしない人にも、どんどんと読み進められる作品だと勧めることが出来ます。

作品の推進力となっているのは、間違いなく主人公である成瀬のキャラの強さでしょう。

主人公のキャラを強くすることは一つの鉄則でありますが、ここまで強いキャラクターと言うのも珍しいですね。

たぶん、読み終わったあとにみんな成瀬が好きになること間違いないです。

主人公のキャラを際立たせる構図そのものは、割とオーソドックスな形であると思います。

ようするに変わったキャラクターがいたとして、彼女の主観で物語を進めるのではなく、あくまでその傍にいる人の視線でその変わったキャラクターを観察するようにして描いていくというやり方です。

と説明しても、分かりにくいと思うのでわかりやすい例を挙げると「シャーロック・ホームズ」とかが典型的ですね。

ホームズという変わり者の探偵をホームズの主観ではなく、傍にいる凡人のワトソンに語らせるというやり方をとることで、ホームズの魅力を際立たせています。

つまりこの作品をそのまま当てはめると、「成瀬」がホームズであり、「島崎」をはじめとする各エピソードで主観となっているキャラクターがワトソンということになりますね。

そうしたキャラの構図を考えた上で、この作品が特徴的であるのは、作者の愛がものすごく詰まっていて、それを隠さずにガンガンと押し通しているいるという点です。

「滋賀愛」「西武愛」ちょっと考えるだけで、作者がいかに自分の身近にあったものが大好きで、成瀬たちと通してそのことを懸命に伝えているのがわかります。

そして作者なによりも「成瀬」というキャラクターを愛している。

「成瀬」という自らが生みだしたキャラクターを書くのが楽しくて楽しくてたまらないというのが伝わって来るからこそ、読むほうも「成瀬」が好きになっていき気になって仕方がない存在になって行くんですよね。

作者の「成瀬」愛が顕著になっているのは最終章。

それまでの各エピソードは成瀬と直接的も間接的にも関わった人がワトソン役となって成瀬という人物を描き出しているのですが、最終章は成瀬本人が主観となって語っています。

ポイントは成瀬の視点で描かれているのにも関わらず、成瀬はあくまで「成瀬」として客観的にも描かれている。

つまりここでは作者がワトソン役となって、「成瀬」というキャラクターが作品の終わりにどうなるのかを見届けようとしているんですよね。

島崎が最初に「成瀬あかり史」の証人になりたいと言っていますが、あれはそのまま作者の気持ちなんだというのがよくわかりました。

ここまで主人公を愛して本を書けることは幸せなことだと思うし、そういう作品を読めるということも幸せなことだと思いました。

笑いのセンスも抜群の作家さんだと思ったので、次の作品がぜひ読みたくなりますよね。

最後に余談ですが、ライオンズファンのわたしとしては、ちょっと特別な思いでこの作品を読むことが出来ました。

まさかライオンズ女子が表紙の小説が出るなんて……。

「成瀬」が「KURIYAMA」の名前が入った背番号1のユニフォームを着ているということだけで、何だかとてもうれしいです。