骨髄バンク ドナー経験者が思うこと

競泳の池江選手が白血病を公表して以降、骨髄バンクへの登録が全国で急増しているそうです。
本来ならば、元来もっと広まっているべき話だと思いますが、どんなキッカケであれ、こういった知られるべき情報が興味を持たれ、活動が広がっていくことにつながることはいいことだと思います。

ちなみにわたしは、タイトルからもわかるように、実は骨髄移植のドナー経験者です。
骨髄バンクから数年前に打診があり、当時十代の男の子に骨髄を提供しました。
本来ならば、あまりべちゃくちゃと話す話ではないのかもしれませんが、興味を持ってくれている人がたくさんいる今こそ、そのときに感じた話をするべきだと感じたので、この場を借りて書き記すことにします。

まず基本的な知識として、骨髄移植なのですが、白血病を患う人がすべて移植をするわけではありません。今は分子標的治療薬というものがあり、これに化学療法を合わせての治療をまず行います。それを大抵2年ほどやった後で、それでもなかなか思うように回復しない人が今は骨髄移植という次の選択をしているようです。そして患者がその選択をした時点で、まずは可能性が高い兄弟や親戚関係に同じ骨髄の型を持つ適合者がいるかどうかを調べます。この時点で適合者が見つかり、その人が合意をすればその人がドナーとなりますが、兄弟がいない、またはいても適合者が見つからない場合は、骨髄バンクから適合者を見つけることになります。ちなみに適合確率は、親子関係ではほとんどなく、兄弟関係で4分の1、そして非血関係関係では型にもよりますが、百人~数万に一人の確率だそうです。この確率を少しでも上げたいために骨髄バンクはドナー登録者を少しでも増やしたいと考えているんですね。

適合が判明すると、ドナー登録者に連絡が来て、担当の人に会います。そして担当の人から、詳しい話を聞き、こちらからも質問などをした上で、実際に移植に合意をするのかどうかを決めます。登録をする=移植に同意ではなく、ドナーの意思はあくまで尊重されます。
移植をする際にドナー側に起こり得るリスクとしては、医学的なリスクはほとんどありません。全身麻酔下で手術は行いますが、そもそも全身麻酔に耐えられない体の人や高齢の方、また持病が思い方などは登録に除外されていたりするので、その辺りはかなり慎重に検査をして選抜がされています。
それ以外のリスクとしては、何日か検査と実施の手術のための入院のために学校や会社を休まなくてはならないということが挙げられます。
検査や入院費用はすべて骨髄バンクが持つので、その点に関しては金銭的な心配をする必要はありません。ただ会社が有給で休ませてくれない場合は、その分の損失はドナー側にあるので、そこは注意が必要です。ちなみにわたしの場合は、会社にドナーなどになった場合に休むことが出来る制度があったのですが、なぜか無給だったので、やむなく自分の有給休暇を使いました(この点についての話は、改めてまたします)。

検査を経た後、実際に手術となる入院をしますが、期間は回復具合によって違うのでマチマチだとは思います。わたしの場合は特に問題が何もなかったので四日でした。まあ、ほとんどの場合はこれくらいの長さだと思います。
そして、手術となりますが、拍子抜けするほど痛みも何もありません。全身麻酔なので、ふっと意識が失い、戻った時にはすべてが終わって病室に戻っています。正直、尿管カテーテルだけは痛かったのですが、これもすぐに外れたので何も問題はありませんでした。

手術後に、移植した側とされた側はそれぞれ二回ずつ手紙のやりとりをしてもいいことになっているので、わたしもこれに倣い二往復だけ文通をいたしました。幸い、相手方の子は経過も順調で回復したようです。
手紙を受け取って感じたのは、当たり前のことですが、本当にやってよかったということ。人一人の命を救ったわけなのですから、それは本当にそうなのだと思います。おそらく患者の経過が思わしくなかったとしても、後悔はなかったはずです。ただこれはあくまで個人的な感情なのですが、自分の中には、人を一人救ったという感情よりも、どちらかといえば、自分自身が救われたという想いの方が強かったと思います。自分が社会に貢献したというハッキリとした経験が自信につながったというか、ものの見方や感じ方などを今思えば少し変えてくれたような気がするのです。個人的には褒められたことをしたというよりは、当たり前のことをしたという感覚の方が強いのですが、それは気持ち的に、ドナーとなった自分の方こそも得たものが多かったからだと思います。

ドナー経験者であるわたしとしては、もちろん多くの人にドナー登録をしてほしいと思いますが、人にはそれぞれ事情はあるとは思います。どうしてもドナーになれない人や、気持ちがあっても出来ない人、適合者に選ばれても、手術を選択出来ない人など様々です。どんな選択をするにしても、それはその人自身の選択であり、責められるものではありませんし、また自身で苛む話でもないと思います。大事なのは、どんな選択をしたという結果よりも、自分の知らないところで苦しんでいる人がいるということを知ること、そしてそれについて考えることだと思います。どんな選択をするにも、何も知らなければ、選択すら出来ないのですから。

池江選手ならびに全国の白血病で苦しんでいる皆さんの回復を願わせていただくとともに、骨髄バンクの活動がさらに広がっていくことを切に願います。