ベーシックインカムとはようするに国民全員に一定の金額を給付することをもって、一部の社会保障と一体化させるという話です。
実は欧米では70年代くらいから議論されている話で、最近も結構いろんな場所で実証実験が行われているんですよね。
その結果、皆がイメージするような、「みんな働かなくなるんじゃないか」という事態はほとんど起きないということがわかってきて、むしろこの制度を実現した方が行政の無駄が省けていいんじゃないかって話になってきているんです。
そして日本においてこの話に一番熱心肩入れしているのが、橋下さんがいた大阪維新の会です。
ベーシックインカムの話で一番議論なるのは、一月あたりいくら払われるべきなのか、またその財源はどこから持ってくるべきなのかという点です。
それはそのはずですよね。働かなくても生活が充分になるくらいもらえるのと、スズメの涙ほどしかもらえずに、その上社会保障などをすべてカットすることで財源を充てるのとでは、まったく話しが変わってきてしまいますからね。
では、大阪維新の会はベーシックインカムをどのようにデザインしていこうとしているのしょう。
まず月々にここに配られるお金はだいたい6万から7万ぐらいに設定しているようです。
それに対し、社会保障については、教育や医療などは据え置きのまま、基礎年金、生活保護、あとは児童手当などをベーシックインカムと一体化させたいとのこと。
児童手当などはわかりますが、問題は基礎年金や生活保護ですね。
確かに財源を考えると、年金に手をつけなくてはそもそも話が始まらないというのはわかります。
ただみんなが支払っている基礎年金にだけターゲットを絞り、報酬比例部分については据え置きにするというところにこの党が何を考えているのかがわかるような気がします。
つまり報酬比例部分にまでベーシックインカムに組み込んでしまうと、これまで余計に高いお金を年金として積み立てきた富裕層にしてみれば損でしかなく、富裕層に反対されることで、ベーシックインカムの提案はおろか、党に対する支持までも失いかねないと考えているんですね。
さらに財源の話を突っ込んでみていくと、この党のスタンスそのものが見えてきます。
ベーシックインカムをやるとなると、基礎年金や生活保護などの社会保障分やそれに伴う役所の無駄を省いただけでは財源はまだ足りません。
そこでこの党が提案しているのは、所得税における控除の廃止とフラットタックスの実施です。
控除の廃止は単純に言うと納税者全体における所得税の増額です。
そしてフラットタックスとは、現状の累積課税(お金を稼げば稼ぐほど負担する税率が上がるというシステムですね)を止めて、金持ちも貧乏人も皆が同じ税率にしようという考えかたですね。
つまり全体的な負担を増やす一方で、お金を稼いでる人の負担は減らすということをこの党は考えているわけです。
ただこれだけだと、一方的に金持ちに肩入れしていると批判されかねません。
そこでこの党はさらに資産課税をするべきだと言っています。
ようは相続税などがイメージしてしやすいですね。
ようするに不労収入については厳しく税を取り立てるという話です。
以上のベーシックインカムにまつわる話から、この大阪維新の会という組織がどのような人のための政党であり、この社会をどんなものにしたいかが見えてきます。
まずこの政治組織が誰のために動いているか。それは自分で多くを稼ぐ能力がある人たちです。
維新の政策では、不合理や無駄を徹底的に省くことに特徴があります。
ただその不合理さや無駄の中には、平等であることを望む気持ちや、やりたくても出来ない人々も入れられているような気がしてなりません。
生活保護に対するスタンスなどをみてもそれは明らかなように思えます。
そして一方で、金持ちなら誰でも擁護するのではなく、持っているものが自分の力で得たものではない人については、資産課税についてのスタンスを見ればわかるように、実にシビアです。
とにかく無駄や不合理さをなくすこと。
自分で稼ぐことが出来る人を善とし、稼げば稼ぐほど得をするという仕組みにすることで、皆がそうした人間になりやすい社会を作り出すこと。
維新の目指す社会とはようするにこのような社会ではないでしょうか。
もちろん様々な考え方があるのでそうしたスタンスはそれはそれでいいと思うし、それに対して有権者がどう判断するかですね。
わたし個人としては、この維新型ベーシックインカムについては、条件付きで賛成できるところと懸念を感じるところがあります。
賛成なのは、たとえベーシックインカムを導入しても、医療・教育などの基本的な社会保障制度は据え置きにしたままにするという点。
ただ将来的にそこが変わることはないという保証がないので、たとえ財政的に厳しくなってきでも、そこは国の礎だけに絶対に侵食しないという明確なルールは担保として作るべきだと思います。
また、懸念に感じるところはやはりどうしても弱肉強食のイメージが拭えないこと。
能力がある人が努力することで得られるリターンを多くする。そうすることで社会は経済的に発展するはずだという理屈はわからないではないです。
ただこれでは、経済的に結果を出していることが何よりも重要では正しいと間接的に言われているような気がしてしまいます。
社会にとって本当に価値があることが、経済的な利益と常に合致するわけでありません。
頑張って結果を出したからといって勝ったもの勝ちの仕組みにしてしまえば、誰もが勝ち負けでしか物事を判断しなくなり、いくら経済的に潤ったとしても社会全体でみたときに果たしてそれでいいのか疑問に残ります。
年金の報酬比例部分については、ある程度容認出来ても、累積課税の廃止とフラットタックスの導入は、結果的に格差拡大の要因になりかねないので、やはりこの部分については反対ですね。
格差をなくすためのベーシックインカムのはずなのに、いくら頑張ったからといってお金持ちを今よりも優遇してしまえば、結局何も変わらないのでないかと思いますからね。
現状のやり方を変えるという意味では共感できるところもありますが、考え方の根本的なところでわたし個人の考え方とはズレているなあと改めて思いました。
ただベーシックインカムについての議論はこれをどうやって運用したいかで、その人の政治スタンスが垣間見れるので面白いです。
これについて前のめりに意見を発信しているのは今のところ維新だけですが、他の政党もぜひ考えをまとめて公にしてほしいですね。