「鉄人」著 矢作俊彦・落合尚之

「鉄人」著 矢作俊彦・落合尚之

隠れた名作ですね。
押井守さんや安彦良和さん、大友克洋さんというそうそうたるメンバーが絶賛している作品です。

まず話の設定が面白いです。
現代の旧満州が舞台で旧日本陸軍が隠していた兵器が次々に出てくるわけですから、歴史が好きな人には興味深いですね。
そこに最新のロボット技術の話がうまく噛み合っているわけですから、SFとしてこの上ない話です。

この作品を読んでいて思うのは、原作の矢作さんが相当ちゃんと調べて話を作り込んでいるということ。
歴史背景はさることながら、現代の吉林省についてもしっかりと描かれていますし、日本陸軍の兵器にしても、ロボットの話にしても、それらしくリアリティがあるように描かれているので詳細まで楽しむことができます。
そして何よりも物語がしっかりと書き込まれているので、SF的な面白さだけでなく、ヒューマンドラマとしても楽しめることが出来るのがこの作品の特徴です。
離れて暮らす父親や、仕事を優先させる母親に対する主人公・翔の心情が物語全編を通して伝わってきますし、アメリカ、日本、中国と異なる国の学校に通うことになる、翔の気持ちの戸惑いもよく描けています。

個人的に一番心に残ったのは、中国の子たちとの交流です。
特に両親が日本軍が残したガス兵器によって死んでしまった暁声と翔との反発から始まる心の交流はとでもよかったです。
翔を逃すべく、鉄人の前を並んで歩く暁声ら中国人の子どもたちのシーンは、かなり心を揺さぶられました。

ラストがやや夢落ちに近くなってしまったこと、結局悪いのがロシアの武器商人やアメリカの諜報部員という話になってしまっている点などは少し引っかかりましたが、まあ、どうしても実在の設定を利用すると落とし所が難しくなってしまうのは、しょうがないですね。
タイムスリップも基本的に科学的に説明出来ない話ではありますし……。

何はともあれ、もっと広く知られてもいい話だと思いました。
ただ舞台設定が設定だけにアニメ化は見送られたのかな……。
ちなみにこの作品において未来の設定は2021年になっているんですね。鉄人は作れなかったけれど、動くガンダムは作れましたね。