「すべてがFになる」 著 森 博嗣

「すべてがFになる」 
著 森 博嗣

森博嗣さんがメフィスト賞を受賞してセンセーショナルにデビューした作品ですね。
多くの人がベスト10に選ぶほど人気が高い作品です。
一体何が多くの人を惹きつけるのかと思って読んだのですが、なるほど納得しました。
確かにこの物語は、ミステリーの形をとりながらも、ミステリーの枠を超えた、優れた作品だと思います。

ミステリーを読む際に重要なのはいかに読み手を引っ張れるか、ワクワクドキドキを与えられるか、だと思います。
でも、ワクワクドキドキをただ与えている作品は、面白い作品であっても、優れた作品とは言い切れません。
その作品が優れたものと読み手に思わせるためには、どんなトリックを使ったのかなどの、ストーリーとしての筋書きの面白さとともに、作品が持つテーマ性が熱く読み手の気持ちを昂揚させるようなものでなくてはいけないんですよね。
そしてこの作品には、確かにその両方がともに優れた形で備わっているんです。

まずミステリーとして、やはり筋書きが面白い。
なぜそうなったのか分からない中で、想像を超える答えが待っていたことは見事でした。
そしてテーマ性。
典型的な理系の人が書いた小説というのは読んでいてわかるのですが、作者自身の研究というものに対する熱意みたいなのが伝わって来るんですよね。
主人公の犀川と同じく、当時大学の工学部の助教授であった森博嗣さんは、研究者としてもすぐれた業績を残されています。
そんな作者だからこそ、物を突き詰めて考えることによって、常識を覆していくという姿勢が見事なまでに表現されているんですよね。
理系の人間らしく、犀川や萌絵をはじめ、出て来る登場人物の多くが理知的で、論理的に目の前に起きることを理解していきます。
ここまでは、理系の作家さんの書く小説においては、あるあるなんですけれども、森さんの場合、追及する姿勢そのものに愛があるというか、登場人物を通して、森さん自身が楽しんでいるのが伝わって来るんですよね。
そして読み手は、淡々と語られながらも、うちなる情熱を秘めた森さんの描く世界観にどっぷりと浸っていき、気が付くと、犀川や萌絵の視線と一緒になって、目の前の現実そのものを疑ってかかるようになっていて、世の中というものは、まだまだ理屈だけでは測れないものがたくさんあるんだということを思い知らされるんです。

圧倒的に自分が認知できる世界が狭く、世の中はまだまだ広いんだということを叩きこまれるんですよね。

この「すべてがFになる」を最初とする犀川&萌絵が活躍するシリーズが全部で10冊あるという話ですが、これだけの読書体験を毎回させてくれるというのなら、ぜひ全部読んでみたいと思いましたね。