「最初の悪い男」
著 ミランダ・ジュライ
映画監督のミランダ・ジュライの初の長編小説ですね。
ノンフィクション「あなたを選んでくれるもの」がとても面白かったので、読んでみました。
正直、出だしから三分の一ぐらいまでは戸惑いました。
登場人物の誰にも感情移入が出来ず、どんどんと主人公の妄想がおかしな方向に進んでいって、一体どういう気持ちでこの本を読めばいいのかわからなかったんですよね。
読み進めるのに、かなりガッツが必要でしたよ。
でも、物語が中盤に差し掛かったころから、どんどんとこの小説に対する見方が変わっていきました。
心地よい物語を読者に提供しているのではなく、読者にこの世界の現実であったり、みながスルーをしてしまっていながらも、実は誰もが抱えているような感情をこの本は丁寧に描いているんだということに気が付いていくんです。
そう考えると、「あなたを選んでくれるもの」もそうした視点でした。
これは、地元フリーペーパーの「売ります」コーナーに出品している人にジュライが興味を惹かれ、彼らにインタビューをして行くという話なのですが、そこに出てくる人たちは、みんな変な人たちで、でも変な人たちでありながらも、妙に人間臭くて、そこに思わず自分たちとの共通点を見出してしまうような話なんですよね。
今回の小説の主人公であるシェリルも、「あなたを選んでくれるもの」に出て来ていた人たちを彷彿とさせるような、変な人です。
すごい妄想癖ですし、自分に色々とルールを課していますし、孤独のあまり、ちょっと絡みづらそうな雰囲気がとてもあります。
実際、フィリップのくだりの妄想とか、クリーとの殴り合いとか、ちょっと訳が分からないです。
でも、その訳の分からなさにこそ、人間の本質と言うか、人間味みたなものが隠されているんですよね。
ミランダ・ジュライはそうした視点を常に持っていて、それを表現するのがとてもうまいと思います。
最初はどうしょうもない感じのクリーとの関係が劇的に変わっていき、その変わっていく過程や変わっていくことに意味をぶつけられていくにしたがって、すっかりとこの本に釘付けとなってしまいました。
これぞ文学という小説だと思います。
本当に、ちょっと慣れるまで時間がかかる小説なのですが、結果的にいい意味で色々と考えさせられる作品です。
アメリカ社会の現実というか、そういったものも読んでていて伝わってきますしね。
変な作品ではあったけれど、それでいて強い印象を残す良作だと思いました。