「子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から」 著 ブレイディみかこ

「子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から」 
著 ブレイディみかこ

ああ、これは大事な本ですね。
イギリスの保育施設でボランティアとして働くブレイディみか子さんの本ですが、そこで描かれる保育施設はいわゆる普通の保育施設ではありません。
底辺に沈む人々が利用する施設であって、さらには保守党の緊縮財政政策によって先細りして行く一方の施設の現状をこれでもかというほどリアルに描いています。

今や超格差社会のイギリスにあって底辺の人々はここまで酷い状況に追い詰められているのかと驚かされますが、でも実は日本の状況もそんなに変わらないんですよね。
アメリカやイギリスほどじゃないにしても、日本ももはや結構な格差社会になってますし、貧困状態にある子どもは、今や6人に1人と言われています。
どうしても住む地域によって大きな違いが同じ国の中にもあるので、裕福までいかなくとも、普段普通の状態で暮らしている人には、貧困状態にあるということが現実世界の問題として見えてこないんですよね。

そうした中で本作のように底辺のリアルを可視化してくれる話は非常に貴重です。
現場にいる人には、言語化などする余裕がないのが大抵だと思うのですが、だからこそあえてそこを独特なユーモアを持って記して行く作者の視点というか、姿勢にどんどんと惹かれていきます。

確かにギリシャ危機の時、日本でも緊縮財政という言葉が盛んにニュースで使われていましたが、肌で感じる緊縮財政とはどういうものなのかということがよく分かりました。
一歩間違えれば日本でだってこうした政策が選択される可能性はあるので、間違いなくよく知っておいた方がいい話ですね。
そういう意味では、多くの人々(特に政治家や経営者、マスメディアの人)に広く読まれるべき本ですね、これは。

全体的にインパクトが強すぎて、印象に残る話ばかりだったのですが、個人的に最も心に残ったのはあとがきに書いてあった言葉。

「政治は議論するものでも、思考するものでもない。それは生きることであり、暮らすことだ」

作者がこの政治に興味を持つようになったのは、実際にイギリスで保育士として働き始め、「何かヘンだ。何かおかしい」と思っているうちに色々と調べ始めたという話だそうです。
つまり生きることが苦しい人を目の当たりにして、なぜこんなことになっているのか、を考えざるをえなかったんですね。
その気持ちそのままが上記の言葉なんですが、その通りですね。

政治とは、名誉職でやるべきものではないし、上に立つ者が自分たちの利益のためにするものではないんです。
社会そのものが健全に回るため、どうしたらいいか、必死に考えるものなんです。
そのために、まずは人々の暮らしがちゃんと出来ているのか。
人々がちゃんと生きていけているかどうかをしっかりと見据えることが大事なんですよね。

これ、イギリスの話ですけれど、まんま日本にも当てはまる話です。
こういう声を拾い上げてこその民主主義ですね。
そういう意味では、プレイディみかこさんみたいな人が取り上げられること自体が大事なことだと思います。
こういう本をもっと作ってもらいたいですね。