「記者たちの満州事変 日本ジャーナリズムの転換点」 著 池田一之

「記者たちの満州事変 日本ジャーナリズムの転換点」 

著 池田一之

日清戦争、日露戦争から始まって太平洋戦争に終わるまで、日本の軍事的な対外進出に対して、日本の主要メディアがこれを批判するどころか後押ししていたのは、有名な話ですね。

特にその転換点だったのが、柳条湖事件に始まる満州事変に対する報道であって、この本ではジャーナリズムがもはや後戻り出来なくなってしまった顛末が克明に語られています。

戦争に対するメディア協力の話はもちろん知っていましたが、当時の感覚を知るとさすがに震えますね。

確かに軍部の検閲が厳しく、その暴力的圧力によって書きたくても書けない状況であったことは理解出来ますが、ただその反面で戦争を後押しした方が新聞が売れるという理由で、戦争報道を煽っていたという部分もあり、それはさすがに愕然としました。

毎日と朝日の寡占が大きくなり、そこに読売が重なって熾烈な販促が戦争報道に派手にしていったという流れが非常によく分かりましたね。

そして問題の根本が世の中にある格差であることもわかりました。

格差に対して、大きな怨嗟があった民衆はとにかく政府を批判していた。

政府としては、日中戦争を始める気はなく、むしろ関東軍の暴走を止めようとすらしていたのに、格差への怨嗟によって、政府のやることなすことすべてが批判されていて、それに相反する形で、軍部が起こす威勢のいい話が多くの民衆の支持を得てしまっていたんですね。

本来ならば、そうした場面でこそ、真実と倫理を問うことがジャーナリズムの神髄であるはずなのに、当時のメディアはそれを全うするどころが関東軍がでっち上げた話に乗っかってしまったわけです。

恐怖と販促のためとはいえ、ちょっと酷いですし、しかもこれが昔の話とは思えず、そのまま現代の話にも重なっているんじゃないかって思うと、恐ろしくなりますね。

ただその中でも、軍部の圧力に屈せずにどうにか真実を書こうとした記者が少なくてもいたという事実は救いです。

新聞連合奉天支局長の話とかは全く知らなかったのですが非常によかったです。

ただその一方で、戦後大手のメディアやそこに重役としていた勤めていた人々の多くが、戦争に加担したことについて何ら責任を取らずに、主張を変えていったことには強く違和感を覚えました。

この本、すべてのメディアに関係する人が読むべき本ですね。

こういう本を先人がまとめてくれているということは非常にありがたいです。

在庫限りで絶版という本ですが、こういう価値ある本こそ後世に残していくべきだと思います。