「生きづらい明治社会 不安と競争の時代」
著 松沢裕作
歴史の授業ではすっ飛ばされ、人気の幕末と昭和に挟まれて、大抵の場合何となくしか語られない明治時代。
良くも悪くもなく、ただひたすらに文明開化のイメージしかないために、この時代がどんなものであったのかを知っている人は意外に少ないと思います。
本書は、そんな明治時代がどんな時代であったのかを非常にわかりやすく端的に推し得てくれる本です。
簡単に言えば、明治維新によって生まれ変わりましたものの、そもそも政府にお金がなく、また江戸時代に作り上げられた村請制も廃止されてしまったので、この時代は、一般庶民にとっては極めて大変な時代だったんですよね。
政府は欧米に植民地化されまいと富国強兵と殖産興業を進めるのですが、当然そこでは資本主義の悪い面が剥き出しとなり、格差が広がって、貧困が当たり前の時代であったと言うわけです。
確かに西欧文化が流入され、文明はある程度開化していったものの、常に変化を求められ、それでいて零れ落ちてもほとんど救済もされないのですから、国民としては非常に辛いですよね。
しかも憲法が出来て、国会は開設されたものの、まだお金持ちの男性しか参政権がなのですから、自然と彼らだけが優位となる社会が形成されていったわけです。
本書を読んで、通俗道徳という言葉が非常に印象に残りました。
ようは今でいう自己責任論です。
貧乏なのは、すべて努力しない個人の責任とされる考え方で、明治時代はその考え方をもって、不安と競争を掻き立てられていたんですね。
そしてその話を聞くと、どうしても現代を考えています。
通俗道徳、つまり自己責任論は今もわたしたち現代日本人の心に蔓延っていて、わたしたちは今なお、わたしたちは不安と競争を強いられています。
もちろん、文明の進歩と大日本国憲法から日本国憲法に変わったおかげで、わたしたちは明治時代の人たちからずっとまともな生活をしていますが、根の部分の精神的な面で実はあまり変わっていないんですよね。
しかも明治時代は、不平等条約改正の度重なる失敗から、世論が次第に国粋主義に傾いていきます。
国粋主義と通俗道徳がやがて軍国主義を呼び込んでいく布石になっていったことは、決して忘れてはいけない歴史です。
どうしても戦国時代や幕末の方が面白いのですが、明治時代で作られたことがそのまま軍国主義やひいては現代社会の在り方の基礎を決めていったことを考えると、もっとも学ぶべき時代だと個人的には思います。