「東京、はじまる」
著 門井慶喜
明治の建築家、辰野金吾の人生を描いた歴史小説です。
日本銀行や東京駅といった今も残る建築を設計した建築家の話ですね。
建築家の話なので、もっと理系の小難しい単語が並ぶ話なのかと思いきや、幕末から明治に至る辰野自身の人としての変遷を描いたナラティブであったので、非常に感情移入して読めました。
それでいて専門的な建築や歴史の話もわかりやすくキッチリと入っているので、門井さんの筆力は非常にすごいです。
面白かったのが、辰野自身が本当は建築が好きかどうか微妙にわからぬままに大家になっているという描き方です。
好きなものを仕事にするのではなく、国家に必要とされることを仕事にするべきだという、良くも悪くも明治男ならではの考え方が嫌な感じがせずに描かれていたので、とても興味部下かかったです。
西洋建築を学び、高層ビルディングをはじめとする合理的な建築を最初は目指しながらも、そのうちに変わっていき、今度は若手にかつての自分と同じことを言われて悩むという、辰野の人間臭い部分の描き方にも惹かれました。
その中で、辰野自身がいずれ東京の町は合理的なビルディングに埋め尽くされることを予見し、自分自身の建築はあくまで江戸の日本家屋から合理的なビルディングに移り行く中での過渡期のものなのだということに気づいていく部分は、唸らされました。
何だか、この本を読んだ前と後では、東京の街並みの味方が変わってきますね。
かすかに残る明治期の擬西洋建築などを見ると思わず近寄ってしげしげと眺めてみるようになってしまいました。
辰野の設計した東京駅も数年前にリニューアルされましたが、なぜ昔の姿そのままを残そうとしたのか、その気持ちがよくわかるような気がします。
今見ても、高層ビルディングに負けないほど壮観なのはホントにすごいです。