「地図と拳」
著 小川哲
直木賞受賞作品ですが、その名に恥じず、非常に面白く興味惹かれた小説でした。
まずテーマがスゴイ。
満州という日本の現代史の中でうす暗い影を差すこの地において、日本人が何をどうしたのかと言う話なのですが、ここで拳、つまりは暴力についてはすでに色々なところで語られている話はよくあります。
ただこの小説の大きな特徴であるのは、そこに地図を絡めているところ。
まだオーシャンブルーである満州という土地に、地図をいかに引き、それを持って都市を作っていくのかというところに焦点が置かれているところに大きなだいご味があります。
正直もうそれだけで面白いのですが、この作者の特徴であり、面白い部分であるのが、そこに微妙にSFの要素をからましていくところですね。
この微妙に、というとさじ加減が難しいのですが、この作者はそこを絶妙にやっていくんですよね。
ようするに、史実の中に、架空の話をちょいちょい混ぜていくのですが、それが妙にリアルで、いや、そんなはずはないだろうということも、結局読んでいる方は簡単に騙されちゃうんですよね。
もしかして、そんな話もありうるかもと。
また壮大な話であるだけあって、実にたくさんの人の視点で代わる代わる描かれていくことも、本作品の特徴であります。
これって、簡単そうで、実は非常に難しいですよね。
下手すれば散漫な話になってしまうし、そもそも強力なテーマが作品を通じて貫かれていないと一体何の話なのかもわからなくなってしまう。
この点についても、作者は絶妙なさじ加減で、満州を取り巻く人々の話を、時系列的に混乱させることもなくスラスラと読むことが出来るように、物語を編み込んでいるんですよね。
二冊にわかれる長編でしたが、一気に読むことが出来ました。
個人的に小川哲さんは、デビュー作である「ユートロニカの向こう側」からずっと追いかけている作家さんですが、これからもぜひ追っていきたいと改めて思いましたね。
歴史小説好き人も、SF小説好きの人も楽しめる稀有な傑作です!