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厳選名著紹介

「正欲」 著 朝井リョウ

「正欲」  著 朝井リョウ なんとも言えない気持ちにさせられた小説でした。 読後感に一般的に求められるような都合の良いカタルシスがない反面で、色々と考えさせられる話であることは確かなので、非常に優れた小説なんだと思います。 それにしても、まずはこのテーマをあえて選び、書き切った作者に敬意を表したいですね。 「多様性」という言葉からもこぼれ落ちる性欲をテーマにしている時点で一般受けしないことはわかり […]

「絶唱」 著 湊かなえ

「絶唱」  著 湊かなえ 湊かなえさんの阪神淡路大震災の記憶を軸に描かれた作品ですが、それまでの作品と印象がかなり違うのでかなり驚きました。 四本立てで最後の章がおそらく作者の実体験に基づいた私小説に近いものかと思われますが、その経験で感じたことが動機づけとなり、見事に一つの作品として仕立て上げているのですね。 震災での経験があったからこそ、この人は作家になったのかなと、この作家さんの原点を描いて […]

「ニムロッド」 著 上田岳弘

「ニムロッド」 著 上田岳弘 芥川賞受賞作ですね。 サーバーをメンテナンスする仕事をしながら、ビットコインを掘る仕事をするように社長に命じられたぼく(中本哲史)を主人公にした話です。 書評を見てもいい意味で芥川賞受賞らしく、称賛する声となんだかよくわからないという声に二分されています。 まあ、確かに物語に人の情感によるカタルシスを求める人には、この作品は取っつき悪いものとして映るでしょうね。 これ […]

「その名を暴け ♯Me Tooに火をつけたジャーナリストたちの闘い」 著 ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー

「その名を暴け ♯Me Tooに火をつけたジャーナリストたちの闘い」  著 ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー 映画界の大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインによる数々の性的暴行を暴いていったニューヨークタイムズの記者たちのドキュメンタリーですね。 ニューヨークタイムズのこの一連の話が世界中で♯Me too運動が生まれるキッカケを作ったのは記憶に新しいですね。 タイムズはこれでピ […]

「文化人類学の思考法」 編 松村圭一郎、中川理、石井美保

「文化人類学の思考法」 編 松村圭一郎、中川理、石井美保 文化人類学という学問を知っているでしょうか? たぶん多くの人にとっては、どこかで聞いたことがあるかもしれないけど、具体的に説明するのはちょっと難しいと感じる学問でしょう。 その名の通り、文化人類学とは、人類の文化の在り方を学ぶ学問です。 これが深く知っていけばいくほど面白いのですが、特徴的なのはその独特の思考法と言えると思います。 この本は […]

「囚われし者たちの国 政界の刑務所に正義を訪ねて」 著 バズ・ドライシンガー

「囚われし者たちの国 政界の刑務所に正義を訪ねて」  著 バズ・ドライシンガー これはすごいルポタージュでした。刑務所から大学へのパイプラインというプログラムをアメリカで立ち上げた大学教授の著書なのですが、刑務所で教えるうちに、刑務所の在り方、司法の在り方を大きな視点で問い直したいという動機で世界中の刑務所を訪ねた歩いた記録です。 わたしたちの社会には、当たり前のように刑務所があり、悪いことをした […]

〈家父長制〉は無敵じゃない 日常からさぐるフェミニストの国際政治 著 シンシア・エンロー

〈家父長制〉は無敵じゃない 日常からさぐるフェミニストの国際政治 著 シンシア・エンロー 社会の様々な場面で支配の顔を覗かせる家父長制に対して、フェミニストたちがいかに戦ってきたのかを記した本です。 男性の中には、フェミニスト=男性を攻撃する人と認識している人も多いと思いますが、この本を読むとわかりますが、フェミニストは男性そのものを攻撃しているわけではなく、家父長制がおかしいと主張しているんです […]

「人新世の「資本論」」 著 斎藤幸平

「人新世の「資本論」」 著 斎藤幸平 言いたいことはとてもわかる本でした。 確かに気候変動問題は待ったなしで、そのためにはドラスティックに資本主義を変えて行かなきゃいけないこともわかります。 理想という意味では、この人の考え方は正しいと思います。 ただあまりに話がラディカル過ぎて、本当にそれで皆が納得してすんなりといくのかっていうことを考えると、どうしてもそれをそのまま受け取れない自分が心のどこか […]

「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」 著 デヴィット・グレーバー

「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」 著 デヴィット・グレーバー とても興味深い本でした。ブルシット・ジョブとは、本の題名通りに「クソどうでもいい仕事」つまり、世の中にみんな存在していることは知っていても、特に口には出されないようなあってもなくてもいい仕事という意味です。 著者の造語ですが、最近では一般化してきているようです。そして本著では、まずブルシット・ジョブの定義づけから始まり […]

「わかりやすさの罪」 著 武田砂鉄

「わかりやすさの罪」  著 武田砂鉄 その通りです。概ねこの著者の言っていることに同意が出来るなと思いました。確かに世の中何でもかんでもわかりやすくわかりやすくしすぎです。 いや、個人的にはわかりやすくすること自体は悪いことではないと思うのですが、何でもかんでもわかりやすくすることがあたかも正しいように扱われるのはちょっと違うと思います。 映画や小説を見ても、みんなわかりやすいカタルシスばかりを求 […]