「月の光 現代中国アンソロジー」 編 ケン=リュウ

「月の光 現代中国アンソロジー」 編 ケン=リュウ

中国系アメリカ人のSF作家ケン=リュウが編集した現代中国のSF作家たちの短編を集めた本です。

この本を読むきっかけとなったのは劉慈欣の「三体Ⅱ」の解説です。
解説者が劉慈欣の言葉として、「自分の作品は二次元的なものにすぎないが、近い将来はより三次元的な作品を書く韓松などの作品が若い世代が求めるものになるだろう」という話を知ったからです。もう少し詳しく説明すると、二項対立を軸に書き進められた自分の作品よりも、さらに哲学や社会性などが乗っかった韓松の作品の時代がやってくると言っているのです。
これは、気になりますよね、韓松。
正直この人のことを知らなかったのですが、韓松と書いてハンソンという読む人で、劉慈欣と同世代で中国SF界の四天王と劉慈欣とともに呼ばれている人だとか。
早速、この人の書いたものを探そうと本屋を探し、出会ったのがこの本です。
韓松の作品として「潜水艇」「サリンジャーと朝鮮人」という二つの短編が入っています。
ちなみに韓松の作品は、まだまだいくつかの短編が日本語に訳されているだけであんまりまだ日本には入ってきてないんですよね。

それで韓松。確かに面白かったです。特に「潜水艇」の方は個人的に好みでした。
まあ、でも感じたのは「三体」を読んだ時と同じで、自由に社会や政治を語れないんだなということ。
特にこの韓松という作家は、そもそも新華社通信という中国きってのメディアでジャーナリストをしているだけあって、言いたいことはたくさんあるんだろうな、というのは作品を読んでヒシヒシと感じます。
そして逆にそれをエネルギーとしていかに当局の目をくらますかのようにパズルのような難解さで作品を紡いでいるんですよね。
もっとこの人の作品を読んでみたい気がしました。

そして韓松以外にの作家の作品ももちろん読みましたが、何か「ああ、最近の中国の人ってこういう感覚なんだ」って妙に新鮮な気持ちになりました。
本の全体のタイトルにもなっている劉慈欣の「月の光」も面白かったですが、個人的には宝樹の「金色昔話」や顧適の「鏡」などが面白かったです。

全体として確かに細部では中国の歴史や寓話などが使われていて中国らしさが醸し出されていて興味深ったのですが、基本的にSFという括りで考えると、日本人や欧米人が書いたものとそれほど変わらないんだなと。SF的想像力は人種によって違いはなく、ここに世界の人たちが分かり合う何かヒントがあるような気がしました。
それと作家の中に結構女性が多かったのも印象深かったです。

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