「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」

「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」
2022/日本

ファーストガンダムのキャラデザインを手がけ、しかも「THE ORIGIN」の原作者である安彦良和さんが原作だけでなく、監督までするというので、もうそれだけでガンダムファンにとっては必見の映画ですね。
話の元ネタは、アニメ、ファーストガンダムの第15話で描かれたものです。作画が崩壊してしまっているということで有名な話ですが、内容そのものは話のメインストリームから外れた妙に心に残る独特な話でした。
まあ、脱走兵をテーマにしている時点で、ガンダムが他のアニメとは違ってリアリティのある作品だということを物語っていますよね。

ちなみにこの「ククルス・ドアン」については、少し前におおのじゅんじさん(絵が驚くほど安彦さんに似てる)によってその前日譚が描かれた作品が連載されていたので、そうした面から見ても、人気の高いエピソードであったことが伺わされますね。

さて、そうしたこと踏まえた上で、今回の映画の感想なのですが、一言でいうと安彦さんの漫画の空気感みたいなものがそのまま映像になったという感じでした。
シリアスな話の中でところどころにキャラによるちょっと面白めな抜けのエピソードをリズムをとるかのように入れ込んでいたり、それでいて場面のとこどころにカッコいいシーンを入れてメリハリを効かせたりと。
何だか安彦さんの人柄がそのまま投影されたような演出でしたね。

物語としては、アニメ放送では描かれなかったドアンと一緒に住む子どもたちや、アムロとドアンたちとの交流などがしっかりと描かれていたのがよかったです。
ただ少しドアンがよく描かれすぎていたので、そのあたりはもう一歩踏み込んで欲しかったかなとは思いました。
島に来る前までのドアン、つまり本作においてサザンクロス隊にいたころのドアンについては、前出のおおのじゅんじさんの漫画における開発訓練Y-02小隊にいたという設定の方がしっかりと描かれていたので、あっちのエピソードの方が正直よかったかなと。

まあ、どうしても尺が短いので、ドアンの過去についてはザックリと触れるしかなかったんでしょうけどね。
ただ無理にそうした設定を与えてしまった分、それが少し半端になってしまった感じはしました。
マクベの核ミサイルの話があるのなら、島の探索に来る舞台をわざわざドアンの元所属部隊にしなくてもよかったような……。
もしくは、するならするでもうちょっと元所属隊のメンバーとドアンとの過去のエピソードを出してもよかったと思います。
小説版には、もっとそのあたりが書き込んであるという話なんですけれどもね。
たた、あまりにここのボリュームを大きくしてしまうと、情報量が多くなってしまい、話に観客がついていけなくなってしまう可能性も出てきます。
このあたりのさじ加減は確かに難しいですね。

あと気になった点と言えば、ガンダムを降りたアムロが情けない感じに描いているのはとてもよかったです。
アニメ版だと時折彼がこの時点で15歳であるということを忘れがちになってしまうんですけれども、アムロが15歳だということを改めて意識して描いてあったので、ここはドアンとの比較の上でもテーマを深掘りしているように思えました。

それにしても、正直この手のマニアックな企画、もっとやってほしいです!