「ほとんど想像すらされない奇妙な生き物たちの記録」
著 カスパー・ヘンダーソン
21世紀の幻獣辞典との触れ込みに惹かれて読んだ本ですがとても興味深い本でした。
そもそも幻獣とはまだ生物学が発展しておらず、移動距離もたがが知られていたために、現実と想像とがゴッチャになっている中世において生まれた生物たちのことを言います。分かりやすい例をあげればペガサスとかユニコーンなどと言えば、理解出来ますね。
ただ中世やそれに続く近代と違って、現代では生物学がかなり正確な確証を得るまでに進歩し、映像技術や世界中のどこにでも行けるようになりました。
なので、今の世界では、幻獣とは完全に想像の中のものでしかありません。
したがって、この本でも、そうした想像の上での幻獣のことについて語っているのではなく、あくまでリアルな生き物を取り扱っています。
そして面白いのは、リアルな生き物たちを描くこの作家の視点です。
これは生物に対してただの科学的な説明をしているだけの本ではありません。取り上げられている生物たちがどのように進化してきたかだけでなく、過去に人間たちにどうかかわってきたのか、どのように描かれてきたか、など多角的な視点で教えてくれます。
科学的というか、博物学的とでもいいましょうか。
そこにこの人の作家としての思い入れや考え方などがちりばめられているので、読み物としてとても面白いです。
教養が身に着くというのは、こういう本を読むことによってなされるのでしょう。
日本ではウーパールーパーとして親しまれた生き物が、世界一般ではサラマンダーと呼ばれ、火の中でも生きられるという伝説がある一方で、今は絶滅の危機に瀕しているとか、昔はウミガメが時に海を覆いつくすほどたくさんいたとか、面白い話がこれでもかというほど満載です。
生き物に興味がある人にはぜひ読んでもらいたい本ですね。
個人的に面白かったのが、中世にボルヘスという人によって書かれたという「幻獣辞典」の話。
ここにア・バオ・ア・クゥーというイカのような生物が描かれているのですが、この名前にすぐにピンと来てしまいました。
「機動戦士ガンダム」に出て来るジオン軍の最後の砦の要塞の名前は、ここから取られているんですね。