バイデンは中国の手先? 日本で「陰謀論」に騙される人が急増した「深刻な実態」
アメリカ大統領選挙が終わってから数週間が経ちました。
バイデン勝利は確実なのですが、トランプ大統領はあくまで敗北宣言をせず、法廷闘争をする構えを見せています。
普通に考えれば、選挙に負けたのだから政権を明け渡すのは当たり前の話だと思うのですが、選挙に不正があったというトランプ大統領の明確な根拠がない主張に支持者たちが同調しているという形になっています。民主主義が形骸化してきているということと、社会分断がアメリカで深刻なほど進んでいるということが、このことからわかりますが、不思議に思うのは、アメリカのトランプ支持者だけでなく、日本にもネット上にトランプ支持を表明する人が一定数いるということです。
そのほとんどは元々右寄りな思想を持った保守派の論客ですが、彼らの主張に背中を押されるように、いわゆるネトウヨと呼ばれる人たちも、ここにきて「メディアが露骨にバイデンの肩を持っている」「バイデンが大統領になったら、中国が好き勝手にやるようになってしまう」と大合唱をしています。
様々な論調を見ていると、選挙に不正があったかどうかを詳しく調べた上で、疑惑について文句を言っているというよりも、そもそもバイデンが気に食わない、それに肩入れをするメディアが気に食わないといった感じで、話がすっかりとすり替わりとにかく自分たちと意見が違う奴はダメだという話が前面に出ています。
ではなぜ彼らはバイデンやメディアを毛嫌いし、トランプ大統領を支持するのか。そのキーワードとして様々な専門家から挙げられているのが「中国」です。
正直日本に国籍があり、日本で暮らしている人にとってはたくさんのアメリカ株でも持っていない限りアメリカの大統領が誰になろうと直接的にすぐに何か影響がある訳ではありません。もちろん、アメリカのアジア戦略や市場戦略によって、経済的軍事的に色々と政府や企業が動かなければならない事態が起こるかもしれませんが、それはあくまで限定的で、すぐにでも中国と戦争状態にでもならない限り、わたしたち日本人はアメリカ大統領が誰になるかで明日のご飯の心配をしなくてもいいでしょう。
アメリカに親戚でもいない限りは、アメリカの社会分断や経済格差が間接的に影響があっても、すぐに日本に影響があるわけではないのです。
それなのに多くの日本人がトランプを支持し、メディアをこき下ろしています。しかもその理由の大半が、トランプの方が中国に対して強権的に出ているというイメージがあるからと、メディアが中国大掛かりな中国批判をしないから、です。
ここからわかるように、ハッキリ言って、トランプがアメリカの内政に対して大統領としてどんな政策をするかよりも、トランプがいかに中国と戦う姿勢を見せてくれるのかが日本人の保守派にとってははるかに重要事項であり、むしろその点においてでしか物事が語られていない印象すらあります。
そう考えると、なぜ日本の保守派やネトウヨはそんなにも中国を意識し、彼らを恐れているのかという話になります。じゃあ、お前は中国を怖くないのかと言われてしまいそうですね。確かに今の香港の状況や、尖閣諸島や南沙諸島での海洋進出、それに14億もの人間がどん欲に経済活動を行ったら果たして世界はどうなるのかという不安はあります。でも、普通に考えて、経済的に影響を受けることはあっても尖閣などの島嶼を除けば、明らかにハイリスクローリターンであるがゆえに、中国が軍事的に日本に進行するという可能性はかなり低いとは思います。しかも冷静に考えれば、日本の土地を占有して軍事利用しているのはアメリカの方で、逆に中国は歴史的に日本を支配しようとしたことはないんですよね。唯一二度の元寇がありますが、元はモンゴル族であり、少なくとも漢民族は顔を立てて朝貢していれば満足していたのです。その朝貢もたいていの場合は、中国側の方がたくさんの贈り物をくれていたわけですし。。。
まあ、だからと言って、わたしは中国びいきというわけではないし、中国を好き放題にしていいのかという話ではありません。水源地の問題に代表されるように、中国だけでなく、重要な土地は外国人にはよっぽどの理由がない限り売るべきではないと思いますし、経済ルールも著作権のルールも中国であれどこであれ、国と国とが貿易をする以上、フェアな関係でなかればいけないと思っています。
ただ、そんなに恐れる必要は本当にあるのかなと思ってしまうのです。ていうか正直、個人的には中国よりも、日本人が右傾化し、戦前みたいな状況になる方がよっぽど怖いし、中国が攻めて来るよりもよっぽど現実味があると思っています。
そして、そこまで考えていくと、日本の場合、保守派とリベラルって、思想そのものよりも何に対して恐れているのかっていう部分で別れているような気がします。
保守派はどこまでも中国が怖く、だから銃を持て、警戒しろと言います。
リベラルは逆に、中国よりも明治から第二次世界大戦後までの強権政治の再来が恐ろしく、銃を持とうとする人たちにとにかく銃を置けという言います。
どちらが優れていて、どちらが正しいというよりも、それは自分たちの心のうちにある恐れの問題で、何を恐れているにしろ、まずわたしたちそれぞれがそれを認めて、それを理解した上で何をどう決めるのかを話し合っていった方がいいんじゃないでしょうか。どんなに回り道で、時間がかかったとしても、互いに出来る限り偏りのある報道だけに目を向けずに事実を突き詰めていって、何がみんなにとって幸せにつながるのかを考える。それぞれが抱く恐れを出来る限り解消するためにはどうすれないいのかを考える。それこそが民主主義の本来の姿ではないでしょうか。
このままではどちらがどちらの主張を通し、もう片方を黙らせたとしても、社会はどんどんと分断されていき、それこそ本当に今のアメリカのようにいずれ日本もなってしまうのは自明です。
アメリカが中国と戦おうと、日本の保守派がいくら中国を恐れようと、日本の最大の貿易相手国はもはや輸入も輸出もアメリカではなく中国です。つまり、もはや中国が怖いからとか、嫌いだからとかという理由だけでそう簡単に関係を解消できないところまで来てしまっているし、中国という国が隣にあることを前提に現実的に彼らとどう向き合っていくのかを考えていかなければなりません。大事なのは、何でもかんでも対立を煽ることでもなく、何でもかんでも媚びるわけでもなく、他の国と連携して切々と中国を含めた上で話し合っていくことです。そのためには、まずはわたしたちが立場や考えの違う人と、自分が得た情報だけを信じることなく対話をすることから始めることが大事なんだと思います。