ラコステとアディダス、ウィグル人「強制労働」の排除を約束 : サプライチェーンの精査を表明
先日、ナイキのCMが炎上しました。
「日本人がマイノリティをいじめていると想起させる」というのが主な理由です。
そもそもいじめなど日本に限らずにどの国にでもあり、別にCMの内容を見れば、日本人を特定して攻撃しているわけではないのは見ればわかります。
確かに、今はマイノリティの側に立つことをアピールすれば会社としての世間的な評価が上がるという下心はあったのかもしれません。でも大事なのは多国籍企業が差別反対のメッセージを大々的な言っていること自体だと思います。
ただの商品の紹介だけでなく、企業が自分たちの基本的な姿勢やスタンスを多くの人に知ってもらうというのはとても大事なことなんですよね。
実際に、ナイキはそれを掲げることで、差別につながるような行動がとれなくなるわけですからね。
なので個人的にはナイキのCMについては何ら問題はないと思っています。
そして、ナイキ炎上に対する違和感が徐々に露わになってきたところで、ナイキを擁護するような記事もチラホラと出てきましたが、それに対して、そもそも今回ナイキを攻撃していた人たちは、
「自分たちは中国によるウイグル人の強制労働を黙認しているくせに、上から目線で日本人を非難するとは何事か」と怒っています。
まあ、最初にナイキ批判が出たときには、そんなことを言っている人は少数だったのですが、いつの間にか、最初から自分たちはみな、そのことを問題しているという話になってしまったようですね。
ただウイグル人の強制労働の問題に関しては、ナイキを始め多くの多国籍企業の対応がグレーであることは確かです。
でも多国籍企業もこの問題について全く放置をしているわけではなく、ナイキも中国における製造網全体にデューディリジェンスを実施しているようです。
しかし相手が中国ということもあり、残念ながら一筋縄ではいきません。
現在、多くの世界的ブランドが、中国の新疆ウイグル自治区でビジネスをするということは、事実上そこで行われている人権侵害を支持するのに等しいと理解して撤退している一方、強制労働の問題は新疆だけにとどまらないということがわかってきたんですね。
つまり、ウイグル人たちは中国各地に移動させられ、そこで強制労働をさせられているというのです。
こうなってくると、さすがに企業だけでそれを調査しろという話になってもかなり困難です。
中国も中国で、そう簡単に調査に応じる訳ではありませんしね。
アディダスなどは「新疆で生産された綿糸を調達しないようサプライヤーに明確に指示している」といいますが、これが中国各地の話になると、もうお手上げなのです。
さらに問題なのは各種イシューに関して中国政府のスタンスを支持しない海外ブランドは、中国国内でのビジネス展開でペナルティを中国政府から課せられてしまうんですね。
こうなってくると、もはや海外ブランドにとっては、極端な話、ウイグルの問題に目を瞑るか、中国との取引そのものをゼロにするか、どちらかの選択しかなくなってしまいます。
そして、サプライチェーンがそれぞれグローバルワイドで出来上がっている中で、中国との取引をゼロにすること自体が難しくなってしまっているんですよね。
なぜならそれは、新たなサプライチェーンを築くために多額の投資が必要になってきてしまうからですし、もっといえば、それは中国という巨大市場そのものを失うことを意味してしまうからです。
今こそ国内回帰だ!と日本企業などに対しても訴えている人も多いですが、性急にそれをすれば、間違いなくその負担はその会社の商品の値段に跳ね返ります。そうすると、商品自体の競争力が失われて、その会社にとっては生きるか死ぬかの死活問題になりかねないんです。
別に多国籍企業を弁護をするわけではありませんが、実際海外ブランドもウイグルの問題の対応にはかなり頭を悩ませているんだと思います。9月にアメリカ下院議会を通過した「ウイグル強制労働防止法案」について、ナイキやコカ・コーラ、アップルが議員に働きかけ、法律発効時の効果が弱まるように条文を修正しようとしているというニュースもありますが、おそらくこれは法案そのものの反対というのではなく、企業側の完全なる調達網からの問題取引の排除が難しいということの訴えでしょう。
中国という大国に対して、もはや企業がどうこう出来る問題じゃなくなっているのは事実です。
これはもはや国際間での何らかの取り決めや話し合いが必要になってきているのですが、中国が効く耳を持っていないという懸念もあります。
じゃあ、もう中国なんて相手にしないで、やっていこうよ!
そう言うのは簡単です。でも、何度も言いますが、サプライチェーンが確立されてしまっている中で、感情任せにそれを強引にやってしまえば、世界が相当混乱し、経済がガタガタにならざるをえません。
実際に、今や日本にとっても、一番の貿易相手国は、アメリカじゃなくて中国ですからね。
中国を恐れる気持ちはわかります。
でも、子供の喧嘩ではないので、ただ嫌いだからといって、遠ざければいいというわけにも行きません。
もちろんウイグルや香港における人権問題は論外です。
政府もメディアもその点については、もっと声高に言うべきだとは思います。
冷静に言うべきことは言うが、仲間はずれにはせずに、キチンとした国際ルールを訴えていく。
遠回りですが、現状はそれしかないでしょう。
そして何とか時間をかけて中国を説得しつつも、中国に依存しすぎていたサプライチェーンの構築を企業に負担にならないように徐々に脱中国化していく。
今すぐに感情任せにただ中国を除外してしまえば、それだけほかの国のダメージも大きくなってしまいます。しかも強硬手段はさらなる強硬手段を招き、リアルに戦争を誘発しかねません。
いくら嫌だと言ってもその国そのものがなくなるわけではないんですね。上手に付き合っていくしかないんです。
そしてそのためには、いかに自分たちがダメージを負わないように注意しつつも長い時間をかけて中国と対話をし、距離を詰めていくしかないんですよね。
ナイキのCMの話からまさかここまで話が広がるとは思いませんでした。でもこれもある意味でナイキがああいうCMを自分たちのスタンスとして表現したからこその跳ね返り効果だと思います。
ナイキ自体は人権問題に対していい加減な対応が出来なくなってきますし、ナイキ以外の世界中の人たちにとっても、中国やウイグルについて色々と考えなくてはいけないと思うに至った、いい機会にはなったのではないでしょうか。そういう意味で、今回のナイキに関する喧騒は、結果的にいい問題提起になったのではなったのだと思います。