日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由国の賃金を決定的に左右するのは何なのか
日本の生産性が悪い。
だから、日本の賃金は低いままで、韓国にすら抜かれてしまった。という話はもはや至るところでされていて、すでに常識とすらなりつつあります。
でも、上記の記事によれば、結果的に日本の賃金が低いということは正しくても、そこに至る理由が「日本人の生産性が低い」という一言で済ませてしまうのは、いかに乱暴な話かということがわかります。
ていうか、データだけ見れば、ここ十数年の日本人の生産性の上昇率は、実は欧米各国とそれほど変わらないんですよね。
違うのは、明らかに賃金分配率です。
つまり欧米各国の多くの会社は、生産性が上がった分に比例して、それなりに従業員の賃金も上げているのに対し、日本の企業のほとんどは、いくら黒字を出しても、賃金という形で従業員に還元していないんです。
賃金が上がるどころか1%のマイナスになっている(ほかの先進国はおよそ16%アップ)。
しかも本来なら従業員に還元するべき多くのお金が投資か内部留保に向かってしまい、しかも投資の多くが海外に向けられてしまえば、日本では全然お金が回らなくなって、どんどんと社会全体が負のスパイラルに陥っているというわけなんです。
GDPに占める労働分配率の長期的な安定性は単なる奇妙な偶然ではなく、マクロ経済の健全性の前提条件であるのは、経済学の常識なのですが、そこから間違えているというわけです。
では、なぜそのようなことになってしまったかというと、当然その理由は非正規雇用の増加に行き着きます。
ようするに、賃金上昇率の高い正規社員の給与がほぼ一定の低賃金で抑えられる非正規雇用に置き換わるわけですから、バブル崩壊後に資金繰りに困っていた会社はどんどんと本来正規社員にするべき人材(特に若い人)を非正規雇用に置き換えていったわけです。
その結果就職氷河期世代を作り出し、しかもその雇用の在り方が現在の低成長の元凶だとわかっていながらも、それを止めるどころか維持して都合のよい景気の調整弁として使っている。
そして今では、格差が固定化され始めているので、すでに既得権を得ている人からしてみれば、非正規雇用があった方が自分たちの自己保全につながるわけですから、内心この制度の維持を望んでいるということになってしまうわけです。
非正規雇用の存在を巡って社会分断が潜在的に起こっているというわけですね。
政府や経済界の重鎮たちも非正規雇用の存在自体は守ろうとしています。
人手不足の中で、非正規雇用を増やすことでしか利益を確保出来ない会社がたくさんありますからね。ただ非正規雇用は、明らかに国民の購買力を削ぐのでこれがある限り内需は先細って行きますし、経済が上手く回ることも難しく、ただ格差だけが広がって行くことになると思います。
岸田内閣は、新しい資本主義を説き、何とかこの状況を変えようとはしていますが、政策の内容だけを見てみると、やはり現状の体制を変えないままやれることをやるという感じなので、今のところはおそらく効果はそこまで期待は出来そうにはありません。
企業の良心に期待するのではなく、もっと抜本的に非正規雇用の在り方そのものを変えていく政策が必要だと思われます。
記事では、同じように非正規雇用が多いフランスとの比較が書かれています。
でも生産性のアップしたにも関わらず、賃金が上がらない日本に対して、フランスでは生産性のアップとほぼ比例して賃金も上がっています。
日本もフランスも、同一労働同一賃金が法律で定められているの同じなのですが、違うのはフランスでは、労働検査官の活用を含めて法律を執行している点です。
一方、日本では、問題の調査と違反者の起訴を義務付けられた省庁がないので、被害者は自分で訴訟を起こし、費用を負担しなければいけません。
さらにもっと言えば、フランスでは正規・非正規を問わず、組合に所属しているかどうかにかかわらず、ほぼすべての労働者が組合契約の対象となっています。組合員のみが契約の対象となり、派遣労働者や派遣会社から派遣された労働者が組合に加入することは法律で認められていない日本とは大きな違いがありますね。
つまりフランスの非正規労働者はその仕組みの中でそれなりにしっかりと守られているんですよね。
企業の調整弁でしかなく、都合よく使われるしかない日本の非正規労働者とはだいぶ違います。
どうしても非正規雇用を続けるというのなら、まずフランスにならって非正規労働者の利益がしっかりと守られる仕組みを作るべきだと思います。
それが出来ないというのなら、最低賃金を社会政策としてではなく、経済政策として引き上げるべきです。
すでに韓国はやっていますね。
ドイツも選挙で勝った社会民主党の公約が最低賃金1,550円だったので、これに近いことはしてくるでしょう。
さすがに1,500円はすぐにはきついかもしれませんが、日本も段階的に近づけて行ってほしいですね。
血を流さない改革はありえません。
ぜひとも一部の人の利権を守るのではなく、国の将来を考えて政策を実行していってほしいですね。
格差を縮めて内需を復活させることでしか、この国は浮上しないのはもうわかりきっていることですからね。