ウクライナとアメリカに政治的な妥協を迫る橋下徹さんの主張の偏狭さ

橋下徹さん、アメリカのバイデン大統領に噛みつく「ロシアと戦えないなら、とりあえず政治的妥結を探れっちゅうの」

元大阪府知事で弁護士の橋下徹さんの主張が物議を醸しだしています。
ロシアのウクライナ侵攻に際しての話なのですが、ようするにNATOが参戦するつもりがないなら、ロシアと政治的な妥結をしろという話です。
ロシアの主張をある程度アメリカが受け入れ、ウクライナに妥協するようにアメリカが説得しろと言う話ですね。
具体的に政治的な妥結が何を意味するのかがわからないのですが、とにかくロシアが主張しているウクライナの中立化と非軍事化をウクライナにある程度受け入れさせろと言うことなんだと思います。
これに対して、在日ウクライナ人の人たちは開いた口が塞がらないといった様子なのですが……。

単純にNATOが参戦しない以上、このままロシアは簡単には撤退しないことは明白であり、戦争が泥沼化しウクライナの人たちが死んでいくのは見るに堪えない、死ぬくらいだったら、今はロシアの言うこともある程度聞いてた妥協しろと言うことを言いたいんだと思います、橋下さんは。
極めて弁護士らしい意見ですね。
正義とか、理想とか、そういったものはとりあえず横に置いておいて、現実を受け入れろという話なんだと思います。
冤罪で捕まった人の弁護士が、罪を認める代わりに罪を軽くしてもらうことを勧めているみたいですね。

でも、橋下さんの主張がウクライナの人たちだけでなく、多くの日本人からも否定されているのは、そもそも今、ここでロシアに妥協してしまえば、力で勢力を変えようとする国々が勢いづくことが目に見えているからなんですよね。
つまりロシアが撤退し、その場は取り繕われるかもしれませんが、味をしめたロシアが、今回14年のクリミア併合の成功で勢いづいたように、またどこかで同じことをやりかねず、また中国など似たような政治体制の国々も同じことをやりかねなくなってくることがわかっているからこそ、今ここで止めなきゃいけないと思っているんです。
ただ、NATOが参戦してしまうと、第三次世界大戦になり、核戦争になりかねない。
だから、西側諸国は後方からウクライナを応援する形になっているんです。

確かに目先の損得を考えれば、橋下さんのような考え方も間違いではないのかもしれません。
でも、当のウクライナの人たちのほとんどがロシアに降伏するくらいなら戦って死ぬことを選んでいるんですよね。
ここの感情は、橋下さんにもわたしたち多くの日本人も感覚的には理解出来ないところがあると思うんですが、たぶんウクライナの人たちはその歴史的な経験からロシア人のことをまったく信用していないんですよね。
一時的にでも降伏なんてしてしまったら、文化も何もかもがロシア化されてしまい、民族全体が虐殺されかねない。
どのみち殺されるなら、闘って死ぬと腹をくくっているんです。
これは、理屈的には確かに橋下さんの言うようなやり方があったとしても、当事者であるウクライナの人たちがこれだけ覚悟を決めているんだとしたら、他の国の人間は、その決意に対して何も言えないですよ。
黙って、今、自分たちが出来ることをして、応援するしかないんですよね。
そこを考えると、橋下さんの主張は近視眼的といわざるをえません。

短期的に見ても、原油やガスの価格が跳ね上がるので、資源のない日本にとっては、非常に苦しい状態になると思います。
色々なものが高くなって市民生活にも影響があるでしょう。
でも、長期的に見て、民主主義を標榜する国家が衰退し、独裁国家の論理が世界の常識になるよりは、かなりマシなはずです。
そういう意味では、対岸の火事ではなく、自分たちの今、歴史の当事者になっているんだと、日本人も腹をくくる必要があるのかもしれませんね。
かといって、個人的には「じゃあ、日本も中国に対抗して軍拡を」とか「核を持て」とか「9条を改正しろ」なんて強硬的なことを言い出すのも「目には目を」的な考え方で、極めて危険だとは思いますが。

今こそ、自分たちが民主主義の国にいるのだということ。
民主主義を大事にする他の国と団結することでしか、今の平和を守ることが出来ないということを深く、よく考える必要がありますね。