「ドンバス」
2018/ウクライナ、オランダ、ドイツ、フランス、ポーランド、ルーマニア
ロシアによるウクライナ侵攻によって、今やドンバス地方(ドネツク、ルガンスク地方)の名前を聞かないことはありませんね。
ロシアと隣り合っていて、現状新ロシア派の住民が多いということは知っているのですが、ただそもそもこの地域の話について、良く分からないので、名前だけが独り歩きしていて、イメージがあまり出来ていないという人がほとんどではないでしょうか。
この映画は2018年に制作されたもので、2014年のロシアによる一方的なクリミア半島併合を発端として、ドンバス地方の新ロシア派が分離派として一方的に独立してからの話を描いています。ドンバスで新ロシア派がどのような統治をしているのかというのをまざまざと見せつけているんですね。
さすがに親ロシア派が支配している地域で撮影が出来ないので、別のところで撮ったようですが、映画を観る限りで、ドンバス地方の空気感というか、間接的にでもロシアに支配されるということがどういうことなのかが伝わってきます。
フェイクニュースが当たり前のように作られて、町はプロパガンダによって洗脳されています。
また統治のやり方そのものも、もはや法などはあってないもので、ヤクザのやり方そのものです。
何だか、戦前・戦中の日本もこんな感じだったのかなとチラリと思ったりもしましたが、そうしたことが日常であるという空気感のようなものを感じ取ることが出来たので、映画を観ることとそのものが貴重な体験であったことは確かです。
ニュースを見ても、この作品を観たあとでは、やはり全然イメージが出来るようになりますものね。
またこの映画が製作された時は、もちろん今回の侵攻は始まっていないので、それを予見していたという意味でも、非常に存在価値が高い映画だと思います。
ただ一つだけ気になったのは、どうしてもウクライナ側に立つ人たちが、その視点だけで、ドキュメンタリーではなく、劇映画という手法で作品を作っているので、基本的に親ロシア派の悪ばかりが強調されている内容となっており、それが事実に基づいたものだとしても、ウクライナによるプロパガンダというわれても仕方がない作りをしてしまっているなとは思いました。
そういう意味で、深い感動というよりも、微妙な気持ちになった人は多いのではないでしょうか?
日本人であるわたしたちからすると、親ロシア派とウクライナ人のそもそもの区別がつきにくく、何がそこまでその二つをそもそも引き裂いているのかとか、間に入って悩む人はいないのかとか、安易に二元対立に落とし込むのではなく、そうした複雑な歴史背景や感情部分をもう少し掘り下げて描いてもらえれば、映画としても格段と素晴らしい作品になったんじゃないかなと思います。
ただこれから、この題材については、色々と映画や小説でも語られていくようになっていくと思います。
大事な話なので、もっとよく知りたいですね。