「秒速5センチメートル」

「秒速五センチメートル」
2007年/日本

「君の名は。」「天気の子」「すずめの戸締まり」などでもはや多くの人にその名をとどろかせることになった新海誠監督の初期の代表作ですね。
実は個人的には、新海作品の中ではこの作品がダントツでいいと思っています。

「君の名は。」以降、川村元気さんが新海監督のプロデューサーとして参加してからは、良くも悪くも新海作品は万人受けする作品になっていったのですが、初期の新海作品はもっと自分の感じたことを愚直なまでに表現しているんですよね。

そして、その愚直さがいい。
多くの人が経験するであろう青臭い感情を、変に自主的にブレーキを踏むことなく、とことんまでやり切っている感じがするんです。

「君の名は。」以降は、10人観れば、8人は面白いと思うような作品を新海監督は作っていると思います。
でも、本作はたぶん半々ぐらい。
男子のこじらせ話を恥ずかしげもなくとことんまで追及している話なので、受け入れないと感じる人も多くいると思いますが、逆にドはまりする人も多くいるという感じの作品だと思います。
いわゆる賛否両論が顕著な作品だと思うのですが、実はこういう作品の方がわかりやすいエンタメ作品よりも記憶に残る作品になる可能性が高いんですよね。

ドはまりした人たちの中で、一部の人たちはことあるごとにこの作品を思い出し、繰り返しみたり、人に強く勧めたりするわけですから。
すでに公開から15年以上経った作品ですが、実際、新海作品の中で最も印象に残った作品として本作を挙げる人をよく聞きますからね。

さて、内容に少しだけ触れますが、三部作の中で個人的にはやはり最初の話が一番秀逸だと思いました。
予定通りにいかないことと、時間が無為に過ぎていくことへの焦りや不安。
思春期の若者が感じがちな感情で、多くの人がここまでの状況とまでは行かなくても、身に覚えがある話に感じたのではないでしょうか。
大掛かりな展開が無くても、こうした些細なシチュエーションの作り方ひとつで、十分人の感情を揺さぶるストーリーが作れるという恒例ですね。

最終的にハッピーエンドにならず、妙にリアルな生々しくダメな感じに終わっている点も、交換がと持てました。
人によっては、主人公の煮え切れなさに苛々とする人も多くいると思いますが、逆にこの煮え切れなさこそに感情移入をする人も多くいるんですよね。

個人的には後者であったので、通常は恥ずかしくてオブラードに包みがちな感情の話を最後まで振り切って描き切っているこの作品にはとても好感が持てましたね。
とても作家の個性が溢れている作品だと思います。

エンタメ志向に流れるのもそれはそれでいいと思いますけれど、新海監督にはこの手の作品をまたぜひ作ってほしいですね。