「アラバスター」 著 手塚治虫

手塚治虫大先生の隠れた名著ですね。

「差別」というテーマをここまで露骨に取り上げている作品も非常に珍しいと思います。

まず設定として、黒人の人気オリンピックだった主人公が白人の女性に振られた挙句犯罪者となり、その復讐のために透明人間になろうとするというのがすごいですね。

しかも失敗して、皮膚が透けて見えるグロテスクな見た目になってしまうという、この設定だけで手塚先生のすごみがわかります。

表題のアラバスターとは、半透明な石膏の名前ですね。

この主人公のことをそのまま示しているのですが、このあたりのセンスのさすがです。

その主人公と対比するように、ヒロインを透明人間になってしまった少女とし、また追うFBI捜査官を美にうるさいナルシストにするという配置も抜け目ないですね。

まったく感情移入の出来ない主人公であるのにもかかわらず、物語に引き込まれてしまいました。そのストーリーテリングとテーマ力をどんどんと融合させていくことが出来る作家は、そうそういないですね。

このあたりに手塚治虫が唯一無二の存在であったことを物語っています。

間違いなく手塚治虫先生にしか書けない漫画ですね。