「鄧小平 最後の闘争 中南海56日の真実」 著 江之楓

「鄧小平 最後の闘争 中南海56日の真実」 
著 江之楓

八十年代に開放政策を推し進めた鄧小平が、天安門事件を起こすまでの56日間を当時政府の中枢にいた著者が記したドキュメントです。
天安門事件は、わたしが中学生のときに当時は、民主化運動をしている学生たちが弾圧されたくらいの印象しかなく、なぜそうなったのかなどの前後関係などはあまり知りませんでした。
ただ時代が過ぎてあれから三十年が過ぎた今、著しく経済発展を遂げた中国にとって、まさに天安門事件が一つのターニングポイントであったことはわかります。
天安門事件の発端は、民主化を一番推し進めたがゆえに失脚した前共産党総書記の胡耀邦が亡くなったことから始まります。学生たちの民主化を求める声が次第に大きくなり、胡耀邦から総書記の身分を引き継ぎ、彼と同じく民主化を推し進めようと考えていた趙紫陽は何とか彼らを宥めようとしますがうまくいきません。
そんな中で、動くのが権力の中枢に居座り続けていた鄧小平です。
ポイントは、鄧小平は経済における開放政策を進めることには積極的だったものの、民主化を進める気はさらさらなかったという点です。
毛沢東らとともに共産党政権を作り上げることに生涯をかけた鄧小平にとって、共産思想を反故にするなどありえない話だったんですよね。これが鄧小平にして、強硬手段に出させた最大の理由です。
本を読んで面白かったのが、天安門事件において、民主化運動をしている学生たちが勝つ可能性があったという話。学生たちが趙紫陽ら政府の改革派と手を結んば、話はどうなるかまったくわからなかったんですよね。
ただ、学生たちは出来もしないのに、自分たちが取って代わることしか考えておらず、また学生たちは学生たちで主導権争いに終始していてまとまりを欠いていたので、結局は鄧小平にうまくやられてしまったというわけです。
この事件の結果が、今の中国の姿をそのまま現しているんですよね。つまり、経済は発展したものの、言論の自由はなく、民主化とは程遠い状況です。
ただ、あのまま民主化していたとしても、中国はここまで経済発展したかどうかはわかりません。実際、中国はブロック経済をうまく利用して発展した部分は多分にありますからね。
古い本であるのですが、30年経った今だからこそ、あのとき中国で何が起こったのかを知り、中国とはどういう国であるのか、中国人は一体なにを考えているのかを知るにはとてもいい本ですね。