「エデンの東」

「エデンの東」
1955年公開/アメリカ

聖書のカインとアベルをモチーフにして、善と悪を描いているのですが、家族の対比を軸に非常にうまく描かれている映画でもあります。善人で通っている父のアダムには、その善人の血を受け継ぎ、父の信頼も厚いアロンと、幼い頃より悪人と言われ、問題児であったキャルの二人の双子がいるのですが、そのうちのキャルの方の心がこの映画のテーマとなっています。
父に疎まれ、母もおらず、愛を知らずに孤独に生きるしかないキャルが、死んだといわれた母親がいかがわしい酒場を家の近くで経営していることを見つけることで話が展開するのですが、まずなぜ母親が出奔したのか、ここの描き方がまず面白かったです。
どうしょうもない自由人であり、悪人でもある母親は、聖書を愛する善人である父に見初められて結婚するのですが、父親は彼女をどうにか教育しようとして、自分の農場に縛ろうとするのです。そして母親はそれに耐えられず出て行く。つまりキャルが父親にされていることがすでに父と母の関係の中でなされており、そしてキャルに対する父の態度は、キャルが母に似ているからこそで、歴史が繰り返されているんですね。
それでも愛に餓えるキャルは父親の気を引こうと、彼の事業での失敗の穴埋めをしようとして、戦争で儲けようとします。まあ、これが聖人である父親には結局受け入れられず悲劇を起こしてしまうのですが、あくまで観念としての善人と悪人を書き分け、それでいて、善人であることの矛盾が浮き彫りになるにつれて、じつは人間っていう生き物は、善と悪の両方を持ち合わせているのだとわかってくるのですから、なかなかすごい映画だなと思いました。
悪人であるキャルが自分たちは常に赦される側だと嘆くシーンにはちょっとグッとくるものがありましたね。
個人的にはアロンの婚約者であるアブラの使い方が非常に効果的で巧いなと思いました。最初はキャルのことを嫌っているのだけれど、でも彼の心うちを知るうちに彼の心の中に自分と近い感情があることを知り、次第に善人であるはずのアロンよりも悪人であるキャルのほうに感情移入をしてしまい、いつしか彼を愛してしまうというね。いかにも人間らしい感情を描いているなぁと思いました。
しかも最終的にその彼女に映画のテーマを言わせているところがとてもよかったです。愛とは求めることであり、キャルを絶望させないためにもと、アダムにキャルに何かを求めてくれと頼む彼女の姿は聖女のように思えました。
まあ、兄のアロンに対しては救いがない気がしてしまったけれど、それがカインとアベルの話であるのだからね。善と悪の矛盾を描いた傑作であると思います。