「転職」が当たり前の世の中で、企業と労働者に求められること

「社員流出に苦しむ会社」「食い止める会社」の差近い将来、日本が「大転職時代」を迎える理由

コロナ後にやってくるであろう大転職時代の話ですね。終身雇用制度がなくなり、日本の企業そのものの体力がなくなってくる中で、企業はジョブ型雇用の転換を進めていくということが前提の話です。そうした状況の中で適応した人間はより条件の良い会社にどんどんとステップアップとしての転職を繰り返して行き、一方で企業が求めるスキルアップに適応出来ない人たちは、職を追われる可能性が高まり、正社員だった人の多くが非正規社員になっていくことでしょう。

ようするに頑張り続けた人とそうじゃない人を容赦なく選別していき、出来る人出来ない人でより分かりやすく、よりスケールの大きな格差社会が生まれる可能性があるということですね。

企業や政府からすれば、そうならないために労働者には歳をとっても時代にあったスキルを絶えず身につけてくれという話でしょう。皆がスキルを身につけて企業や日本社会そのものの生産性を上げれば、皆が正社員のまま給料だって上げられるかもしれないのだから。

言わんがことは正直わからないでもないです。確かに終身雇用と年功序列が染みついている今の多くの日本の企業は年齢が上がれば上がるほどいわゆるブルシットジョブと呼ばれる無意味な仕事をしている中高年層が多く、彼らが生産性を落としていることはまちがいないです。生産性を高めるために、彼らを働かせるよう発破をかける。理にかなってはいますね。ただ問題は、これまで職務を限定しないメンバーシップ型雇用の中で生きてきた人間の意識が急に変われるかどうかという点にあります。

これまで日本型雇用では、終身雇用と引き換えに何でもこなすゼネラリストとして長時間労働が求められるのが常でした。ただ今後求められるのは、職務を明確に規定するジョブ型雇用です。つまり広くて浅い知識をもって前任者がやっていたことをそのままこなす人よりも、何か特定のことの専門家になり、それについてのスキルを常に最新のものに更新し続けている人材が求められているというわけですね。

ドイツなど、欧米ではこのやり方が主流で確かに生産性を良くしています。専門家することで人材確保や育成がしやすくなりますし、基本的に同じ人が同じ業務をすることが多くなるのでそれだけ効率が良くなるんですよね。

今後日本の会社も終身雇用をやめてこうしたジョブ型雇用にどんどんと舵を切っていくことが濃厚でしょう。ただいくら会社がそうした方向に向かおうとしても、若者はともかくこれまで終身雇用のレールに乗っていることを前提に安穏と過ごしてきた中高年がそう簡単に切り替えられるわけはありません。

そもそもいきなり専門性を求められても、ゼネラリストとして生きてきたゆえに専門家といえるほどの知識を持ち合わせていないことが多いでしょうし、もっといえば大部分の日本の企業はトップダウンで動いているので、大きな考えなしに目の前のことだけをやってきたという人も多いでしょう。会社としては、こうした中高年を徐々に切りながらも、ジョブ型雇用を推し進めていくと思いますが、ただコロナが収まった後も日本社会の少子高齢化社会は変わりません。人手不足が常態化していく中で、そんなに簡単に中高年を切ることも難しく、また目立ったリストラは、世間の風当たりもまだまだ厳しいのではないでしょうか。

企業としては、若手だけじゃなく、いかに中高年たちに新しいことを学ばせる機会や時間を与えることが大事だと思います。それも単にそれらを与えるだけじゃなく、何が出来ることが必要なのだと、そういうことを含めて従業員と対話をしていく必要があり、すぐに中途採用の人材を求めるよりも、今いる人間を若手だけじゃなく、中高年も含めて常に会社が育てていくというメソッドや土壌を築き上げていくことが肝要です。会社がちゃんと従業員の話をよく聞き入れて手を差し伸べれば、それに応える社員も多くいるはずなのですから。

また会社としては、従来のトップダウン型の組織づくりも、ジョブ型雇用を推し進めるに当たっては考え直さなければいけないと思います。これまでメンバーシップ型の就労は、建前上はゼネラリストとして色々なことを経験させて幹部候補を育てるという名目があり、その中で勝ち残った人間が経営に携われるという話であると思うのですが、これがジョブ型雇用に変わると、それぞれの専門性は高くなりますが、会社のすべてを俯瞰して見据えることの出来る人材がいなくなってしまいます。

ようするに一人で俯瞰が出来ないから、トップダウン方式でものを決められなくなってしまうんですね。そうなると、組織もそうした縦社会よりも、社内の多くの専門性をもった人間の意見をうまく拾い上げてまとめていくという方式を取らざるを得ない、というか折角専門性が上がっているのだから、それを活かすやり方を見つけなくてはいけないんですよね。つまりワンマンでどうにかするやり方ではなく、多様性を重んじたやり方にチェンジしなくてはいけなくなってくると思うんです。

まあ、従業員だけにあれこれと出来るようにならなければならないと迫るのなら、それを迫る組織そのものも変わらなくちゃ意味がないということです。
労働者もしっかりとした知識を絶えず更新していくことや、自分自身のキャリアをデザインしていくことを求められる時代になっていきますが、企業も旧態依然としたやり方に固執することなく組織を変えていかないと生き残っていくことが難しい時代になってきているということですね。

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