切り取ることの罪深さ 小山田圭吾氏と小林賢太郎氏の問題を再考する

東京オリンピックついに始まりましたね。
すったもんだがありましたが、開会式は、その切り口に新しさはそれほど感じなかったものの、多様性を前面に押し出しているという点ではよかったと思いますし、コロナ禍は続いてはいるものの、ゼロリスクではなく、ローリスクをいかに受け入れていくかを考えるというキッカケになればと思います。

さて、そんなオリンピックも直前になって、小山田圭吾氏の虐め問題と小林賢太郎氏のホロコースト問題が立て続け起こりました。
小林氏については、擁護の声が多かったものの、小山田氏については総バッシングという感じでした。
わたしもその例に漏れず、確かに記事を読む限りでは、何て極悪非道な人なんだろうと思っていました。
でも、ある一つの記事を読んで、少しその考えが変わりました。それは、問題の記事を載せたクイックジャパンを発行する太田出版に当時勤めていた北尾修一氏が書いた記事です。
北尾さんは、編集者Mさんと小山田氏のインタビューに同席していたそうです。
まず最初に念のために言っておきますが、わたしは別に小山田氏を擁護しているわけではありません。
小山田氏がいじめをしていたというのは、事実であるし、いじめ自体はあってはならないことです。
しかも、小山田氏は過去の過ちについて、公式にそれを償うような活動もしていないようなので、今も小山田氏はオリンピックには相応しくないと思いますし、辞任するしかなったとも思います。ただ今回その現場を見ていた当事者による話を読んだ限りでは、どうも最初に語られた小山田氏の話と、実際にクイックジャパンに書かれている内容にはかなり異なる点があり、そこには何らかの悪意すら感じるものがあったので、自分なりにまとめてみて、再考する部分があるのではないかと勝手に思った次第です。

さて、この北尾氏が書いている内容ですが、ようするに世間に広まった要約されたクイックジャパンの内容と、実際にクイックジャパンを全部読んだ内容とでは、かなり印象が違うというものです。今回要約として広まったクイックジャパンの記事の元ネタは、「孤高のブログ」というネットの記事です。これに書かれた小山田氏の記事の要約が今回の騒動のトリガーとなったのですが、確かにこの「孤高のブログ」を読む限りでは、小山田氏は、情状酌量の余地のない極悪非道な人間に見えます。ただ、当時の小山田氏のインタビューに同席していた北尾氏には、小山田氏がそこまでひどい話をしていたという記憶がなく、また雑誌の企画自体もいじめ自慢でもいじめを増長させるようなものではなかったという記憶があったそうです。そこで、北尾氏は26年前に発行されたクイックジャパンを手に入れて、それを再読した上で、当時の記憶と照らし合わせたそうです。

その結果、今現在「孤高のブログ」によって広まった記事そのものと小山田氏の印象と、実際に26年前に発行されたクイックジャパンに書かれた記事及びインタビューに同席していた北尾氏の記憶とは、多くの点で差異があるということがわかったようです。
以下が、主な差異点をまとめたものになりますが、

・そもそも雑誌の企画は、いじめ自慢やいじめを増長するものではなかった。当時ライターだったM氏の持ち込み企画で、壮絶な虐めを受けてきた経験を持つM氏が、虐めとは何なのか、なぜ加害者は被害者を虐めるのかを知りたく、それを世に問いたいがために生まれた企画だった。
・したがって、そもそも小山田氏のいじめ話のインタビューそのものを目的とした企画ではなく、小山田氏と彼に虐められていた被害者との対談が目的の企画だった。ただ被害者側に対談を断られてしまったがために、やむなく事前に話を聞いていた小山田氏のインタビューが、小山田氏の許可のもとで掲載されることになった。
・当時クイックジャパンに掲載された記事の全文を読んでみると、小山田氏が小学校から高校までずっと被害者を虐め続けていたというよりは、小学校でこそは虐めを行っていたものの、高校になるころには、二人はそれなりに仲良くなっていた。実際に、被害者の母親は「小山田君とは仲が良かったと思います」と証言していることからも、「加害者」「被害者」と部外者が簡単にわけられるような関係ではなく、虐めと友達の境界線が曖昧な関係ではあった。
・現在広がっている、性的な虐めなど、読んでいて壮絶な話の多くが、小山田氏が主導してやったものではなく、ほかの生徒がやったもので、小山田氏はむしろそれを見ている側で、「あれはさすがに(ひどい)と思って引いた」と本文では言っている。「孤高のブログ」では、そういった部分が意図的にカットされていて、小山田氏がすべてをやったかのように編集し直されている。
・被害者から貰ったという年賀状についても、「孤高のブログ」では、あたかも小山田氏が悪意によって見せびらかしているような意図に編集し直されているが、実際のクイックジャパンでは、二人が最終的にはそれなりに仲良くなった証拠として掲示されている。

うーん、わたし自身がクイックジャパンを読んだわけではないし、その当時のやり取りを知る立場でもないのですが、北尾氏の話がそのまま真実だとすると、確かにこれは話は全然変わってきますね。もちろん、それでも小山田氏が虐めを行っていなかったという話にはならないので、彼に責任はあるとは思いますが、ただ現状の様に、ものすごく極悪非道な人間のように扱われ、音楽家としての今後の人生を奪われてしまったような状況は、行き過ぎなような気がしてきます。

確かに小山田氏も問題はあります。でも、それと同等に、いや、それ以上に問題なのは、この文脈を見る限りでは、明らかに元ネタになっている「孤高のブログ」です。
北尾氏の話が本当であることを前提にすれば、このブログは明らかに小山田氏を露悪的にある使うように事実を曲げて編集をし、公開しています。
その目的が、単に小山田氏に対する怨嗟なのか、商売目的なのか、悪目立ちをしたいだけなのかわかりません。
ただ、事実を意図的に曲げているというのは確かです。
そして、その事実が意図的に曲げられた話が、真実となって今、世の中に広まっています。
「孤高のブログ」の記事を、内容確認もせずに広めたのは、この話が出ることによって、得をする人たちです。
オリンピックをどうにかしてでも中止させたい人。組織委員会や与党に打撃を与えたい人。それによって商売をしたい人。

わたしは、別に与党の支持者ではありません。むしろ、毎回選挙には必ず行っていますが、今の与党に票を入れた経験はほとんどないです。
オリンピックだって、チケットは持っていましたが、強硬にやれとは思っていなかったし、キチンと話し合われた結果、中止ならしょうがないと思ってもいました。

もちろん、力のある政府、与党、企業などが話し合いに応じずに、何食わぬ顔をしてオリンピックを進めようとしていることに怒るのはわかります。
でも、だからといって、事実確認もせずに、こうした話を拡散することで、自分たちの目的を達成しようというのは、違うと思います。
目的達成のために、何をやってもいいというのでは、批判している与党と何が違うのかと思うのです。

その直後に同じよなことが起こりました。ラーメンズの小林賢太郎氏のホロコーストの問題です。
確かにホロコーストの問題をコントに用いることそのものがナンセンスでありますし、その未熟さにおいて小林氏が批判されるのはしょうがないことだとは思います。
でも、この問題も小山田氏と同じで、かなり露悪的に切り取られた部分だけが誇張されて、事実とは多少なりとも違った印象を持たせるように拡散されています。
確かに、コントの中でホロコーストが言及されていることは事実ですが、コントの中でそれを肯定しているのではなく、否定すらしていますし、コント全体を見れば文脈は全然変わってきます。
しかも小林氏に至っては、小山田氏と違って、人を傷つけるコントをすることを止めると公言し、その後は東日本大震災などで社会貢献活動などに積極的に従事し、芸人を辞めてすらいます。
つまり、彼は自分なりに自分のダメだったところに気が付いて、やり直すために必死になっていた人なんです。

そういった事実は一切無視して、自分たちの目的や商売のために、都合のいい部分だけを切り取って利用する。
これが果して正しいことなのかどうか、小山田氏や小林氏が過去に行った行為と、善悪において何が違うのかはなはだ疑問です。

もう一度言いますが、わたしは別に小山田氏や小林氏の過去のにおける行いを擁護しているわけではありません。
ただ、事実と違うことをまでをも印象操作として行うのは、違うと思いますし、目的達成のために何をやってもいいという感覚には、反対です。

オリンピックを中止と叫ぶなら、改めてオリンピックとは何のために行われるようになったのかを考えてほしいです。
社会の平和のために行われている祭典を、社会のために中止する、延期する、ならわかります。
でも、政治利用、商売利用のために、「中止」を叫ぶのは違うと思います。

目的のためなら、法律に触れない、バレない程度なら何をやっても構わない。
そうした感覚こそが、一番露悪的で、社会を貧しいものにしてしまう、自分たちが批判している人たちと何ら変わらなくなってしまうということを改めて考えてほしいです。

ちなみに小山田氏に関する北尾氏の記事はこちらです。
7月30日までしか公開していないのそうなのですが……

いじめ紀行を再読して考えたこと