「団地の空間政治学」
著 原武史
すでに昭和の匂いしかしない「団地」。
その多くが立て替えられ、そのままの形を残している団地も数を減らしています。
個人的にこの本を読んで思い浮かんだのは、やはり子供の時に近所にあった団地。
友だちが多く住んでいたこともあり、団地内の公園は遊びスポットの一つでした。
あのときは、ただの風景としてしか団地を見ておらず、そこにある社会背景など考えたこともなかったのですが、改めてそれを教えられると非常に興味深い。
著者である原武史さんの著書は「滝山コミューン1974」「レッドアロー号とスターハウス」の二冊をこれまで読みましたが、どちらも団地のついての話でした。
二冊とも西武線沿線の団地の話が中心で、その歴史や政治的背景などと知らなかった話、というか沿線や団地が政治と関わっていたことなんて考えたこともなかったので、とても面白かったです。
そして本書は、そんな団地と政治の話をより俯瞰的にまとめられたものです。
「滝山コミューン1974」「レッドアロー号とスターハウス」はかなりディープな話だったので、団地と政治について、まず知りたければ、本書を最初に読んだ方がいいかもしれませんね。
本書では、西武線沿線の話だけでなく、日本中の多くの団地を取り上げているので、日本の歴史の中で、団地というものがどういう位置づけで作られていったのか、そしてすたれていったのかをよく知ることが出来ます。
共産党や公明党が団地の住民の中に勢力を広めていったという話は、先に読んだ二冊にも詳しく書いてあったのですが、本書を読んで改めて考えさせられたのが、団地の空間、というか住まいの空間というものも、実はそのときの社会状況や政治に左右されているという話。
地域的な相互関係や扶助関係みたいなものがそれまでは当たり前にあったというのに、戦後人口が爆発的に多くなっていくあたって、住宅の供給が追い付かなくなり、そこで団地が登場するという話なんですが、コンクリートによって大量に作られた建物は、プライバシーを確保するのにはよかったのですが、いわゆるそうした地域の関係みたいなものをなくしていってしまったというわけなんですよね。
そして、夫婦二人に子ども二人という典型的なモデルに合わせて団地の部屋も作られるのですが、時代を経て子どもが育っていくと、夫婦が残り、その夫婦も死んでいき、団地が過疎化していくという……。
民間のデベロッパーと違って、公団が供給過多にもかかわらず、団地を作り続けてにっちもさっちもいかなくなったという話や、団地が立て替えられて高層化するにしたがって、さらに個人主義が進んでいくという話は、色々と頷かされました。
団地という建物そのものそうですが、沿線や町の作り方、住まいの作り方など、戦後からだいぶ経った世代にとっては、それらはみんな、考える必要もなく、気が付いたら存在していた光景です。
でも、なぜそうなったのか、は突き詰めれば、理由がある訳で、それを知ることで、これからを考えるキッカケというか、ヒントがあるんだなって、つまりは町の光景一つとっても、意味があるものなんだなってことを考えさせられました。